構造としての企画部門(6)〜会社利益の源泉は時間! 時間と空間「時空」をデザインすれば、利益は劇的に向上する!?〜

(よーし終わった終わった、早く上がらないと組合幹部に怒られる!)

「それでは課長、お先に失礼します!」

「おう」

(これで時間外拒否もとうとう4日目か・・・よくもまあ仕事が停滞しないよな〜)

・・・これは30年ほど前の勤め先での体験です・・・

その勤め先は1部上場企業で、そこの労働組合は「鬼の金属労協」とよばれる組織に属していたせいか、ストライキ中心の春闘(春季生活闘争)だけではなく、秋は秋で時間外労働拒否の「秋闘」といわれるものがあったんです。

実はその時のサワダは父の会社に戻る前の修行で入社したこともあり、身分は正社員ではなく、今で言う「契約社員」、つまり管理職と同じく「非組合員」でした。

なので残業をしてもぜんぜん良いのですが、こわーい組合幹部に「スト破り!」とすごまれて同じ行動を取らされていたのです。

「時間外労働を拒否すれば業務がとどこおり、経営陣が困って要求をのむ」

というのがこの「闘争」のねらい。

のはずなんですが・・・

そこは根がマジメな一部上場企業の社員の皆さん、「ウチが秋闘だからといって、お客様に迷惑はかけられない」

とばかりに就業時間内はかなり根を詰めて仕事をします。

結果、組合幹部の意図とは裏腹に、すべての仕事はほぼとどこおりなく進み

・業務は特にとどこおらず、経営陣も困らず

・社員は集会にちょっと出て、その後いつもより早く家に帰ったり、飲みに行ったりできて

・組合は会社のとの対決姿勢は示せる

という、なんかよくわからないけど「三方良し」の状態になっていたのでした。

そんな体験をしてから約10年後・・・

会社に戻っていた私は父の跡を引き継いで社長になる過程で

・完全週休二日制の実現

・8時30分始業を9時始業に

・みなし残業で予め21時間分の手当を支給し、定時に帰るとお得になる制度に変更

などを次々に実現し、社員の月あたりの労働時間を実質3割程度減らしました。

しかし、当社の当時5〜8億と不安定だった売上は、減少するどころか9億以上の高値で安定しだし、上記施策実行後のほうが圧倒的に営業利益が増えました(同じ売上なら最大で5倍)。

これってウチの社員の皆さんがあの秋闘のころの私のように労働時間が短くなった分、根を詰めてがんばってくれた成果でしょうか?

いえいえ、あんなもんは1週間かそこらで終わるからできたことで、10年20年も根を詰めて働き続けることはできません。

むしろ今の社員さんのほうが、当時よりむしろのんびり仕事をしていると思います(もちろん真面目にコツコツではあります)。

実は上記のような労働時間の短縮を実施する時、私が必ずそれと並行してやっていたことがあります。

それはズバリ「時間あたり生産性の向上」。

実はどんな業態であっても、どんな規模であっても、企業にとってもっとも大切な資源は「人」ではなく、人の使える「時間」です。

工場のような繰り返し作業が最もわかりやすいと思います。

製造ラインはたいてい時間あたりで作れる製品数が決まっているので、3交代にするなどして、なるべく設備の稼働時間を長くしようとしますよね。

商品開発やデザインのようなひらめきが必要な仕事も、実はひらめくまでの時間はその価値の高いひらめきのために「使っている」といえるでしょう。

では中小企業はどうやって時間を作っているか

過酷な労働条件で、働いている人の時間という資源を、グレーゾーンまで搾り取って利益を出す。

これが多くの中小企業が実行している、「雇用した人の時間」という資源の利用法ではないでしょうか?

(読むと機嫌が悪くなる社長さんもいるかも知れませんね)

しかし、いくら長時間仕事をさせても生み出される付加価値を生み出す生産性が低くてはなんの意味もありません。

肝心なのは時間という資源の活かし方。

「時間あたり生産性」が向上すれば時間をそんなにかけなくても、必要な付加価値を生み出すことが出来ると私は考えたのです。

ここから書く話は、「最初からクリアな作戦があって、それを実行して成功しました。」というよりは、「時間あたり生産性の向上」という抽象度の高いというか、だいぶぼんやりとしたビジョンがあって、それに基づいて行動しているうちにクリアになってきた、ことです。

さて、私が会社に戻って取り組んだことで、一番わかりやすいのが、PCに対する身分不相応とも言える投資でしょう。

取引先である大企業ですらIT系を除いては実現していなかった「一人一台体制」を1990年代に実現しました。

しかし、PCの装備であっという間に生産性が向上するのかというとそれはちょっと違うと思います

PCが得意とするのは、人間が出来る仕事の一部を「めちゃくちゃ高速に実行すること」。

なのでPCは無益なこと(何を表しているのかわからないキレイな円グラフ)だろうが、無駄なこと(仕事中にやるべきではないゲームなど)だろうが、人間が正式な手順を踏んで命じたことは何でも高速に実行してしまいます。

なので実はPCをたくさん入れたところで、皆さんが思っているよりは「時間あたりの生産性」は向上しないのです。

(なのでコンサルと称して、危機感を煽っていろんなIT機器を売りつけに来る人にはホントに注意してくださいね。彼らの素性は単なる物売りのケースがほとんどです。)

では、サワダはどのような手法で時間あたりの生産性の向上を実現したのか? といいますと・・・

1)見える化する

皆さんは、毎日忙しそうにPCを操作したり、電話したり、出張したりしている、自分の会社の社員が、毎日具体的に何をしているか知っていますか?

もしそれをご存知なら、彼らがいまやっている仕事が、御社の付加価値を生み出す重要な仕事なのか、それともどうでもいい枝葉の仕事なのか、地味でも誰かを助ける重要な仕事なのか、ご存知ですか?

そこがグレーなばっかりに「アイツは遅くまで一生懸命やっている」とか「アイツは有給取り過ぎだ」とか、「アイツは売上高いからよくやっている」とか、そんな尺度で社員を評価してしまってませんか?

彼らはどうでもいいことに一生懸命になりすぎて生産性が低いから遅くまで一生懸命やっているのかも知れませんし、生産性が高いから有給をとっても十分付加価値が産めているのかも知れませんし、売上が高いのは別の人のアシストのおかげかも知れません。

さらに、皆さんの会社の社員自身は、自分がどんな仕事をしていて、している仕事のどこの部分が価値を産んでいるのか、知っていますか?

実はそれなりのベテランでも「自分の仕事」を明確に説明できる人はかなり少なく、どこが価値があってどこが価値がないかを説明できる人は更に少ないのです。

これはほとんどの人にとって、「自分がどう歩いているか?」を説明するくらい、難しいことだと思います。

サワダは社長になった頃、手始めに自社の営業にメスを入れ、それぞれの分野を担当する営業マンがどうやって仕事を頂いて、どうやって手配して、どうやって納品して請求するのかを「見える化」してみました。

見える化には「作業分解構造図(WBS)」というフレームを使いましたが説明すると長くなるので気になる人は検索してみてください。

簡単に言うと「作業を分解して(ディレクトリー)構造に落とし込む」というものです(そのままんやないかい!)。

すると、当社の営業マンは仕事をいただく「受注活動」には熱心だが、その後の納品までの業務にはあまり力を入れておらず、そのため仕事全体を見ると、最初は勇ましいが終わりはグズグズのまさしく「竜頭蛇尾」。

その結果、受注から請求までが間延びする上に、手配間違いや納品時のトラブルも多く、さらに請求が遅れることも多く、付加価値の生産に必要以上に時間をかけていることがわかったのです。

しかも自らが生み出したクレームを「いかに見事に火消しをしたか」というのが公然と自慢話として語られる有様。

「見える化」によって、各営業マンが「自分の仕事が説明できない」、仮に出来たとしても「付加価値を生み出すポイントを履き違えている」ことが当社の利益の少なさや売上の不安定さをまねいたことがつくづくとわかりました。

2)まとめる

見える化で各人の作業内容(営業も作業の一つとサワダは考えます)が分かれば、まとめてやれば良い作業はまとめてしまうことで、大幅に時間を減らすことが出来ます。

コアな部分の紹介は、当社の業務内容を詳しく説明する必要があり、営業上の秘密にも当たるのでできませんが、どちら様でもできる例を紹介しますと・・

当社ではメルマガやレターの送付などに必要なお客様のアカウント情報(名刺に載っている社名・所属・地位・住所・メルアドなど)は、当初それぞれの営業マンが自分でデータベースに登録していました。

今は、初めてお目にかかったり、部署が変わるなどして頂いたお客様の名刺に自分の日付印を押して、共通のボックスに投函するだけ。

後は事務スタッフが定期的に名刺の情報をデータベースに登録・修正の作業を行い、担当者に返します。

これで、営業マンは本来の生産価値を生み出す時間が増加し、そのぶん全体での時間あたり生産性を上げることが出来ます。

さらに仕事に追われる営業マンが名刺を溜め込むこともなく、ヌケモレダブりが発生することもなく、我々の顧客データベースはいつもフレッシュな状態にメンテナンスできている、というわけです。

3)はぶく

作業を見える化すれば、本人が大切な仕事と思ってやっていた作業に、やらなくて良い、もしくは優先順位を下げても良いものも見つかります。

例えばどんなお客様にでも画一的に訪問していた営業マンがいたとします。

もし、売上の8割が全体の2割のお客様で構成されているとしたら(いわゆるパレートの法則)、その2割のお客様に対してはマメにに訪問などのコミュニケーションを取り、残り8割はさらに分類して年に1回、またはメルマガ送付のみなどに変更したら・・・

職種(生命保険・少額製品の販売・修理など)によっては訪問を省き、お客様に来ていただくことで時間を節約することも出来るでしょう。

そこで節約した時間を、もっと価値が生める仕事に回せば、おのずと時間あたりの生産性は向上します。

4)そろえる

作業を見える化すれば、同じ作業に各人がどの程度手間をかけているかがわかります。

例えば見積書一つとっても、メール一本で済ませる人、さらに電話をかける人、さらにプリントして郵送する人、さらに訪問して手渡す人(最近はいないと思います)、その品質はバラバラ。

見積書に限らずすべての作業に、御社のお客様の種類や取り扱う商品の単価や仕様によって、最適な品質というのがあるはずです。

各作業の品質を最適なところにそろえることで、品質の低かった営業マンの生産性が上がることはもちろん、「高すぎた」人も他の大切な仕事に当てる時間が増え、結果として時間あたりの生産性が向上します。

「我が社の仕事はそんな画一的なものではない」とおっしゃりたい方がいるのもわかります。

しかし利益を出すのが企業の本分なら、お金という画一的なものでその利益というものが評価されるなら、個々のクリエイティブを一定の規格やフォーマットにハマるように整えて出荷する必要がある、と私は考えます。

・・さてここまで読んでいただいて、なんとなくでも「時間あたりの生産性」が上がる感じはつかんでいただいたと思います。

でもきっとこんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるかも知れません。

「時間あたりの生産性が上がったところで、ただ社員が楽になるだけじゃん。社員に楽させるために経営側がこんな苦労をしてなんの得があるの?」

実際には「時間あたりの生産性」が上がって仕事が楽になると、リクルートや社員の定着に良い影響があるんですが、たしかにそれだけでは「そこまでする意味はない」、と言われてしまえばそれまでですね。

しかし、上の4つをやることが、大きく利益を生み出すことになる、最後のとっておきの秘密の隠し味があるんです。

といいますか、上記4項目は、5番目の利益を出すためのいちばん大切なことを実現するための準備作業と言っていいでしょう。

それは・・・

5)しくみにする

各営業マンから集めた仕事の仕方から良いものを集め、さらに経営者として、元トップ営業マンとして、「こうやってほしい」というところを加え、「それはやらなくて良い」というところを省き、さらに手順を一番効率の良い順番に並び替えて、「御社の営業ベストプラクティス」というべき営業マニュアルを作ってしまいます。

このマニュアルは先程申し上げた階層状のディレクトリ構造になっていることが望ましいです。

これで完成? 

いえいえ、マニュアルを作って社員に渡したらその通りに動いてくれるなら苦労はありません。

秘密の隠し味として次にやるべきことは「マニュアル通りに」いや「マニュアル通りにしか」業務が進まない仕組みづくり。

たとえば初歩的なところでは、ホワイトボードを使って、何らかのプロジェクトの進行の情報共有と管理を行うなどから・・

・紙の伝票やチェックリストをつくってしくみ化する 

・PCのスプレッドシートや専用のシステムをつくってしくみ化する

などなど、使うツールはその時の組織の状態や必要性によってさまざまですが、その内容として絶対必要なのが下記の2つなんです。

①フレームがある 

箱で区分けした定形のフォーマット(枠組み)があって、作業者は箱が求める属性に従ってコンテンツを入れるだけになっていることが重要です。

一般的にこういったフォーマットの目的は、「必要な定形情報をきちんと入れてもらうため」と理解されていますが、私の理解ではもう一つ、

「入力者の脳を刺激して時間あたりの生産性を高める」

こっちのほうがより大切な目的なんじゃないかと思います。

こちらをご覧ください。

象は鼻が(    )

ウマの尻尾は(    )です

サワダは(    )な人間です

どうですか?

頭の中がムズムズ勝手に動き出して、人によっては答えを声に出したくなったのでは?

つまり「入力者の脳を刺激して時間あたりの生産性を高める」ためには箱が空欄であることがポイントで

人間の脳は余白があると気になって埋めたくなったり、隠されているとなんとかのぞきこみたくなったりするものだと思います。

この脳が勝手に動き出して知的探究心を満足させたくなるしくみを上手に活用することが、実はフォーマット化が時間あたりの生産性を上げる理由なんじゃないかと思っております。

それぞれが勝手にやっていた業務のやりかた、「業務空間」をそろえるのがフレームという考え方です。

② そのフレーム、フォーマットで現在・過去・未来がわかる

人間の脳は時間の流れが見通せると活性化し、生産性が上がります。

なので時間あたりの生産性を向上させるしくみで使われるツールには、業務の

・現在地がわかる・・・今一連の作業のどこまで進んだかがわかること。

・過去の経緯がわかる・・・これまでどんな作業や情報入力をやってきてヌケモレがないかがわかること。

・未来(次のアクション)がわかる・・・ゴールに向けて、次の作業や情報入力をいつまでやればいいかがわかること(いつやるかまで分かればベスト)。

がマストになります。

もし上記の3つが備わっていないしくみは、結果的にそれを使う組織が本来持っているべき見通しの良さを奪ってしまいます。

もし、お乗りの車のフロントガラスの幅が10cmで、バックミラー・サイドミラーが付いてなくて、後ろも見えなかったら最悪でしょ?

安心してアクセルを踏むことが出来て、目的地に早く着ける自動車のデザインと、業務が進んで時間あたりの生産性が上がる「しくみ」のデザインの重要性は同じです。

このように現在・過去・未来がわかるフレームにすることで、それぞれがそれぞれのセンスで感じていた「時間」の流れ、見通しをそろえる事ができます。

つまりわれわれは業務空間と業務時間で構成された「時空」をデザインし、クリエイトしたことで、当社は、時間あたりの生産性の向上を実現し、労働時間を3割減らしても利益を最大5倍にまで向上させることができたのです。

もしかしたらここまで読んでも、「そもそも営業力・商品力が低くて仕事が取れなければいくら時間あたり生産性を上げてもムダじゃない?」と、うたがいのまなこランランの方もいるかも知れません。

しかし、中小企業の営業力・商品力が低い一番の理由は、「本来的な時間が少なすぎること」。

「本来的な時間」とは、お客様のために動いたり、お客様のことを深く考える時間のこと。

それなしに「営業をがんばれ」「商品開発をがんばれ」と言われたって、社員のほうだって「無い袖」は振れないのです。

話を単純化するために2トントラック配達している自営業の方を考えてみましょう。

トラックいっぱいに搭載した2トン全部を配達し終えるのに8時間かかっていたのが、AI搭載のカーナビのお陰で4時間で配達を終えることができれば、その人が運べる荷物は8時間で4トン。

これを実現するためには荷主に「まだまだお受けできますよ」と電話数本かけるだけの「営業」で済む話。

これまで時間あたりの生産性が低くて、それすら出来なかっただけなんです。

余った時間が出来ると自然と注文が入ってくるイメージを掴んでいただけましたでしょうか?

では本日の結論!

・業務空間と業務時間=「時空」をデザインし、クリエイトすることで、社員ががんばらなくても、時間あたりの生産性を向上させることができる。

・会社の時間あたりの生産性が向上すると、結果的にお客様のために使う時間が増え、劇的な利益の創出を可能にする。

・つまり「時空」をデザインすることは、劇的な利益の創出に直結する。

ということです。

時空をクリエイトして劇的に利益を改善できることは、私自身が体験済み。

コンサルティング業務でサワダが行なっていることも実はそれなんです。

次回はわれわれエースラボが営業企画的なアプローチでどのように「時空」をデザインし、劇的な利益を創出するのか、もうすこし踏み込んでみたいと思います。

ではまた次回お会いしましょう!

☆ゾウは鼻が(    )の正解は「長い」でお願いします。

「象は鼻が長い ―日本文法入門 (三上章著)」は、助詞の「は」だけにこだわって書かれた日本語文法の名著です。運営する学習塾T-Lab. (テラボ) の先生に教えてもらった本なんですが面白かったですよ。

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