構造としての企画部門(5)〜営業企画は営業企画は未来につながるデータから、売上・粗利の見通しをクリエイトする〜

前回は営業企画の知られざる機能とその効果について書かせていただきました。

1、地味でコツコツな営業企画は、「利益がでる営業」をクリエイトし、確実に会社の成長を促進する

2、営業企画はフツーの営業社員のパワーをアシストし、フツーの営業マン・スーパーに変身させることで経営品質をアップさせる

3、中小企業が営業企画のパワーで利益が5倍になることは決して夢ではない

以上が前回のまとめです。

今回から1番目の営業企画は具体的にどういうことをして利益をクリエイトしているのか、もう少し深掘りしていきたいと思いますのでしばしお付き合いください。

今回のお話は大きく3つに分かれてまして、特に最後の3のところがとても重要なので、1,2を踏まえてぜひ読んでみてください。

1,優れた営業企画は「過去」のデータを分析し利益をクリエイトする

皆さんの会社も当然、売上や利益(粗利や営業利益)を月次で把握されていることと思います。

この月次データを見れば、先月までの毎月ごとと、ここまでの累積の「売上」と「粗利益」(売上総利益と記されています)、「営業利益」がわかります。

これは皆さんの会社の事業が先月までどんな状態だったのか?つまり「会社の先月の位置情報」を教えてくれるとても大切な情報です。

人間もそうですが、会社も過去を振り返り、将来に役立てることはとても大切です。

たとえば過去3年間の売上データが分かれば、売上が増加傾向にあるのか減少傾向にあるのかがわかりますし、さらに過去3年間に行った施策が分かれば、その結果はどういった行動で引き起こされたかある程度の推測がつきます。

また、過去を知ることは、「この先どうなりそうか」という予測や、「望ましい未来のためにこれからどうすべきか」を知るある程度の手がかりにもなります。

昨年と今年の月次データを見比べて、これから先の予想を立てる、いわゆる「昨対比」で今年の予測と、今後の対策を立てる手法がこれに当たります。

この「昨対比」という考え方は、ほとんどの企業の管理資料で使われていますし、おそらく皆様のところでもそうしているんじゃないかと思います。

この月次データ、会社まるごとどんぶり勘定ではなく、部門別や商品群・顧客群別に展開されていないと、優れた営業企画的には合格とは言えませんね。

2,優れた営業企画は「現在」のデータを分析し利益をクリエイトする

現在のデータの意義

さらに、優れた営業企画は先月までの月次データを使っての未来予測や対策立案だけでは絶対に満足しません。

なぜなら彼らは「月次データ」についてこんなふうに考えているからです。

・過去のデータ(確定値)は重要、なぜなら、それが分かればこれまでしてきたこととの因果関係がわかるから。

・しかし、月次データはあくまで先月という過去の情報、「過去に何をしたら何が起きたかがわかる」だけでそれ以上でも以下でもない。

つまり優れた営業企画は「過去起きたことが、未来も必ず起きるとは限らない。だから過去を見て予測するだけでは不十分」」

と思っているわけなんです。

では優れた営業企画は、過去のデータの次に何を見ようとするか?

そう、過去の次といえば「現在」! あたりまえですね(笑)

現在地のデータは過去の位置情報よりさらに重要です。

1ヶ月前の過去ではなく、本日ただいまの現在地点を知る事ができれば、過去だけでなく現在の勢いもわかるので、着地点や行く先の予想の精度はさらに上がります。

予測の精度が上がれば、それにともない対策の精度も上がり、より望ましい結果に結びつく確率がはね上がります。

逆に、またたきぐらいは良いですが、30秒前に見た風景をもとに目をつぶって自転車を運転しようとすれば、その瞬間、重大な結果をむかえてしまうでしょう。

業種によって目をつぶっていても良い時間は多少異なりますが、情報は最新であればあるほど良いはずです。

そこで、優れた営業企画はそんな事態を避けるため、会社にすでにある既存の情報、例えば販売管理ソフトや、レジのデータや日計表などを駆使して、今月の本日分までの暫定の売上や粗利・営業利益を、多少不正確でも良いので算出します(速報値)。

優れた営業企画はこうやって、本日現在までの部門別や商品群・顧客群別に展開された、売上、利益などの現在地を割り出し、これから打たねばならない対策を検討していくわけです。

3,優れた営業企画は「未来」のデータまで分析し利益をクリエイトする

さて、ここからが今回の掲載のキモになる「先行指標」のお話です。

ここまで話しした、過去と現在までのデータでは未来は分からず、「このまま行けば」という条件付きの予想が関の山。

どんなに頑張っても、MAX(最大)・MID(中間)・MIN(最小)の3つシナリオを立てて対策するくらいが限界です。

優れた営業企画というのは、それで満足できるような人種ではありません。

そうです、優れた営業企画は欲張りな人種なのです。

彼らは次に「未来を知ることができないか?」という、とんでもない野望を抱きます。

過去を知り、現在を知ることはできても、未来を正確に知ることはタイムマシンでも持っていない限り不可能な話。

しかし、欲張りな彼らはあきらめません。

優れた営業企画は、疑似タイムマシンというべき、未来の兆しになるデータ「先行指標」に目をつけます。

この先行指標とは、現実に起こる結果に先立って現れる「現象」、つまりは兆(きざ)しのことです。

易学の世界では、水の中に潜む龍が天に登る(つまり物事が成就する)兆しとして「見龍(けんりゅう)」という段階があります。

水の下に潜っていた龍(潜龍)が、ちらちらと水から姿を表したり隠したりしている段階のことです。

易学ではこの「見龍」が、ここから空に昇り、躍龍→飛龍という段階にいく兆し、つまり「先行指標」として大事にされているそうで、これから出世しそうな前途有望な人のことも指すようです。

「先行指標」なんて易とか占いとかみたいなものが当てになるのか?? と思われる方もいらっしゃると思います。

もちろん、街角の易者さんの筮竹(ぜいちく)や、占い師の怪しげな水晶玉、はたまたおみくじで未来を判断したり、下駄や靴を放り投げて明日の天気を占うようなものには、科学的な「因果関係」が無く、ここで言う先行指標に値しません。

気象衛星やレーダーの雲の画像などの科学的データがあれば、数時間後の天気はほぼ的中させることができます。

ですから端的に言うと「先行指標」とは気象予測における気象レーダーのようなものを指します。

現代社会において、気象レーダーが無いことを想像すると、どんなに不便かおわかりいただけますね。

逆に我々のビジネスに目を向けた場合、「先行指標という気象レーダー的な武器を持たずして経営している方が不自然じゃないのか?」という風にも考える事ができます。

また、先行指標となるのは、気象レーダーから得られるような強力な情報だけではありません。

たとえば「ツバメが低く飛んだら雨」という言い伝えも、実は「湿気で高く飛べない羽虫を食べるため」という科学的根拠があり、ある程度信頼することができます。

さらにツバメが低く飛ぶという一見不確かにみえるたぐいの先行指標も、他に「山を覆う雲の形」や、「カエルの鳴き声」などという、ほかの先行指標と上手に組み合わせることで予測の確かさを増すことができます。

このように、先行指標はレーダーのように新技術で得られるものもありますが、実は通常の生活や業務の中ですでに発生していて、この目で普段見ることのできる事柄の切り取り方、定義の仕方次第でも得ることができるものなのです。

先行指標は100%完璧ではありませんし、指標によっても信頼性は異なりますが、一定の確率で未来を予想できるのです。

もちろん1,2で述べた過去と現在の詳細なデータの分析までできていれば優良企業だと思います。

しかし、未来のデータ「先行指標」まで駆使できていたらスーパー優良企業の資格あり、ぜひここまでやって欲しいですね

お読みのみなさんに、経営においても「先行指標」という武器は使えるもの、という認識を持って頂けると、サワダもコンサルタント冥利に尽きます。

では、実際にこの先行指標を使って有益な経営を行っている中小企業の事例で紹介しますと・・・

伊勢神宮近くの料理店などを営む創業100年の老舗、有限会社ゑびやは、これまでの「なんとなく経営」から脱却するために、過去の同時期の売上や、ここ最近(現在)の売上から、おおまかな流れや勢いをつかみ、さらに翌日の気象予報、曜日、近隣の宿泊数などの先行指標となるデータから、翌日の来客数を精緻に算定するという、徹底したデータ(先行指標)経営で売り上げを大きく伸ばすことに成功しています。

ではここでもうちょっと具体的に、我らの味方、未来を知ることに貪欲な優れた営業企画が、自身が所属する事業分野に応じた先行指標を巧みに選び取り、以下のように未来の見通しを立てていくのか、B2B、B2Cのケースで考えてみたいと思います。

まず、B2B(法人向け)企業にはかなりあてになる先行指標があります。

例えばこんなケース・・・

キンタロウ石膏は建設資材商社向けに軽くて丈夫な内装用の壁材「キンタロウボード」を製造販売する企業。

彼らはまず本日までの売上に「受注残」という先行指標を加えて売上予測をしています。

「受注残」というのは、もうすでに受注済みですがまだ納品・売上が完了していない受注を指します。

受注残は売上時期も売上金額もわかっているわけですから、先行指標とはいえ今期中の成績になることはほぼ確実。

本日までの売上に硬い先行指標である受注残を加えた額は、今期の売上の最低ラインとして使うことができます。

受注残を活用しての売上予測まででしたら、もしかして「ウチでもやってるよ」という企業もあるかも知れませんね。

しかし、キンタロウ石膏はここから先が違います。

次が優れた営業企画の腕の見せ所です。

キンタロウ石膏の営業企画は受注残のその先にある「案件リスト」を作成します。

「案件」とは顧客から問い合わせを受けていたり、見積もりを出している商談のこと。

彼らが作る案件リストのデータには、売上や受注残と同じ「件名」「品名」「売上予定金額」の他に、「売上予定月」「受注確度ABC」という2項目があります。

「売上予定月」には、営業がお客様から聞き出した予定月を書いてもらうのはだいたい予想が付きますよね。

では「受注確度ABC」はどうやって営業に書いてもらいます? 営業担当者のカン? だったら担当者の性格によってめちゃくちゃばらつきが出そうですね。

そこでキンタロウ石膏の営業企画は、評価のばらつきを防ぐための工夫をしています。

彼らは「予算がついている」「決裁権者まで話が通っている」「納期が決まっている」という客観的な事実情報をもとに確度のラインぎめをしています。

そして営業に対して上記事実情報を必ず収集する、というルールを定め、これらの事実が1つあればC、2つならB、3つならA、という明確な評価基準を守ってもらっています。

この案件リストには実はもう一つ、それぞれの売上予定額に、確度Aの案件には90%、確度Bには60%、確度Cには40%、確度Dには10%というここ3年の実績から導き出された受注掛率をかける計算式が組み込まれた「売上予測額」という項目があるんです。

今回のリストから今期中に売り上がる予定の案件のAの総額が1億、Bが2億、Cが3億ありました。

すると案件リストから得られる今期の売上は、1億X90%+2億X60%+3億X10%=2億4千万と予測されます。

このように、受注確度に合わせた一定の掛率をかけて評価することで、「案件リスト」のデータは受注残ほど正確とは言えませんが、十分信頼できる先行指標となります。

これを先ほどのほぼ確定値の「売上+受注残」にプラスすると、その合計は10億8千万と予測されます。 

目標12億の営業部が、あと1億2千万円をクリアできれば、今期の目標は達成できることがかなりの精度で期待できますね。

キンタロウ石膏の営業企画はすぐさまこの1億2千万のギャップを埋める営業作戦を営業部長に立案、営業部長の指示により営業部員はさっそく作戦に基づいた行動を開始したという訳です。

優れた営業企画企画はこのようにして、試算表に現れない先行指標をも駆使して会社を安定的に向上させる事ができるんです。

ここで注目していただきたいのは、受注残にせよ、案件リストにせよ、全く新しいものではなく、すべてすでに手元にある情報が元になっているということなんです。

あり物の情報でこんなすごいことができるなんてスゴイと思いませんか?

次は、気まぐれな消費者に振り回されがちなB2C(個人向け)企業、こちらにも手がかりとなる先行指標はあります。

こんなケースを考えてみましょう。

マリンファッションを販売するロードサイド店ウラシマスタイルの浦島社長は経営熱心。

商品群別の月次データと日々の速報値からの経営判断の更に次のステップとして、先行指標の採用を考えています。

「先行指標があれば、これまでの当たり外れの多い販売戦略をもっと確かなものにできる。しかしうちは小売だから案件リストみたいなそんなにはっきりしたものはない。うーん、どうしたら良いものか・・・」

とバックヤードのオフィスで1人考え込む浦島社長。

「そうだ、一見不確かに見える情報でも上手く組み合わせれば使えるんじゃないかな?

まず、使えそうなのは既存のお客様からのアンケート。

早速特典付きの友の会を作ってお客様アンケートを定期的に取り、来店頻度別に集計してみよう。

それに気象予測も来店型ビジネスには重要。気象予報会社に会費を払って中長期予報データを取っていこう。

それからもう一つ、経験上来店数に影響が出る、お店が面している国道沿いの店舗や公共施設のイベント情報を毎月はじめにネットで調べていこう。」

上記の情報の収集を始めて約1年後、マリンファッション好きであるはずのウラシマスタイルのお客様、それもコア客の一部から「最近興味のあること」に「低山ハイク」という回答がちらほら集まりだしました。

ちまたではコロナ禍でも密を避けられる低山ハイクが人気となっていて、公共テレビでも低山ハイクやキャンプをテーマとした番組が放映されています。

「これはもしかして・・」

浦島社長は、お店のスタッフと綿密なミーティングを行い、お店でトレッキングフェアができないか検討を始めます。

さらに、トレッキングファッションの仕入先にも接触、またシューズメーカーにもお店に来てフィッティングセールを開いてもらえないかの問い合わせを行います。

もちろんその間も、他の先行指標「イベント情報」や「気象情報」のチェックも怠りません。

するとチャンス到来! 約1ヶ月後に沿道の市営公園で1週間のスポーツイベントがあるとの情報が入ってきました。

さらに気象予報の会社からは、お店周辺のこの先1ヶ月の天気は晴れの日が多い、との情報が・・・

「機は熟した!」ウラシマ社長は決断を下します。

ここまで得た

「コア客のトレッキングへの興味」

「近隣のスポーツイベントで見込まれる流入客」

「スポーツイベント期間は晴天の見込み」

の先行情報を元に

・市営公園で1週間行われるスポーツイベントにぶつけたトレッキングフェアを開催

・フェアではイベント帰りのお客様から見える場所での、テントを使った屋外シューズフィッテングをセット

・トレッキングに適した衣料品の仕入れと、店内の20%の面積を使っての売場づくり

・ここ5年で購入歴のある顧客にむけたフェア開催のDM発送

・チラシより費用が低く効果が見込める画像系SNSへの広告出稿

を決行することしました。

そして入念な準備のもとに実施されたトレッキングフェアは初日から滑り出し上々。

その結果、フェア開催月の売上は、新規商品であるトレッキングファッションだけでなく、集客効果で従来品もアップ。

トレッキングコーナーは常設が決まり、今後もウラシマスタイルの売上確保に大きな力を発揮しそうです。

B2Cビジネスでも、なんとなくのカンやこれまでの流れで品揃えをして在庫・安売りリスクを抱えるのと、このケースのように、先行指標を駆使して、ある程度正確な見通しのもと企画を立てて実行するのとでは、その結果に雲泥の差が出ると思うのは私だけでしょうか?

以上「優れた営業企画(やその感覚を持つ経営者)が、すでに目の前にある既知の情報や、少しの工夫で得ることができる情報から、未来の兆しとなる先行指標をクリエイトする」、というB2B、B2Cでの架空のケース2例を紹介しました。

サワダがこの2つのケースで言いたかったのは・・・

すぐれた営業企画がクリエイトする価値の1番目は「未来にわたる売上・粗利の見通し」をつけることである。

つまりすぐれた営業企画がいると「経営の見通しがつくようになる」ということです。

くどいようですが「見通し」とは実際の決算期やその後に結果がわかるのではなく、事前に結果が予測できるということです。

もし先の見通しがなく経営すれば、眼の前に来た仕事をただこなすことに必死、儲かったときもただ税金を払うだけの場当たり企業。

データ無しでカンに頼って無謀なギャンブルをすれば、たま〜には当たるかもしれないけどたいていハズレて、太く短い人生を終える、ハイリスク・ローリターン企業になってしまいかねません。

一方、先の見通しをある程度正確に予測できれば、利益が出るときは法人税納税の資金の準備はもちろん、教育費や一括償却できるような機械工具や備品の手当など、来期のために投資的に使う経費や、社員に報いる一時金のことなどを計画的に準備・実施ができることになります。

また万一利益が出ない見通しのときも、営業部門の短期と来期以降に向けての対策強化、不要不急の出費の取りやめ、金融機関に対して不安を解消させる事前説明などの対策が取れるわけです。

さらに進歩してこの先数年の中期の見通しが立ってくると、計画的な財務改善、計画的な昇給計画、計画的なリクルート、計画的な事業や商品開発、が可能になり経営の安定度が格段に良くなっていくでしょう。

どうですか? こんな営業企画がいたら御社の未来は一体どんなふうになるんでしょうね?

次回は営業企画がクリエイトする価値その2「価値を生み出すのに必要な時間」についてお話します。

今回のまとめ

1,優れた営業企画は「過去・現在・未来の兆しである先行指標」のデータを駆使し会社の見通しを立てる

2,優れた営業企画はさらにデータを部門別、商品別に展開することで細かい対策を可能にする

3,優れた営業企画がクリエイトした見通しにもとづく対策で会社は経営を格段に安定させることができる

☆当方の事業会社であるミカド電装商事は典型的な受注型B2Bビジネスです。

経営陣と企画部門(エースラボ)が協力しあい、過去・現在のデータはもちろん、商談案件も独自の基準で確度分けし受注額を予測することで、今では決算の半年前には±5%の誤差で売上予測ができ、営業利益も±15%くらいの精度で予測できます。

おかげで私を始めとする経営陣は、今期の期末対策はもちろん、将来にわたる計画的な財務改善、計画的な昇給計画、計画的なリクルート、計画的な事業や商品開発をちゅうちょなく進めることができています。

☆ラリー・エリソン率いる「Oracle(オラクル)」は世界トップクラスのデータベース管理システムを販売するソフトウェア企業ですが、Oracleには「預言、神託、神の言葉」といった意味があり、「正しいデータ(先行指標)があれば、未来を知ることも可能」という企業としての強い自負を感じることができますね。

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