「俺に言わせりゃだなぁ・・・・」
「だいたいなっとらんのよ!」
ここは若い頃働いていた「サラリーマンの聖地」新橋のとある居酒屋、午後8時。
そこで係長クラスの先輩社員がしていたのは、だいたいこんな会話でした。
「今日どうだ?」なんて誘われることもありました。
ひとり残って仕事が終わって、彼らのたむろする居酒屋にもぐりこむことも。
そして常に、なぜかタダでお酒が飲めました。
どうやら彼らには、給与の他に経費が割り当てられていて、店主に敬礼をして店を出ると、後日会社に請求書が届く仕組みになっていたらしいんです。
今では死語になったようですが、これがいわゆる「社内接待」というやつで、まだバブル前夜の時代でしたが、高度成長期以来こんな麗しい風習が当時の日本にはまだ残っていたのです
「部長がアホだ」、「技術部門がバカだ」、「取引先はしょうもない」。
彼らが機関銃のように連発するのはタダの悪口ではない、とても的確な悪口です。
日ごろなにかと気苦労が多い中間管理職級の先輩方だけあって聞けば聞くほど「なるほどたしかにそうだよね」と思える芯を食った話ばかり。
それを聞いているのはなかなか面白くて、不肖私自身も大口を開けて笑いながら手をうち、ビールを飲み、さつま揚げやエイヒレやアタリメをかじっておりました。
今思い返してみると、彼らの話題は大抵は「あれがない、これがない」という「今ここに無いもの」の話が100%。
「だーからダメなんだよなぁ! ウチは! カーカッカッカ!」
そんな豪傑笑いの締めくくりで、無い話を繰り返し。
締めはお定まりの雑居ビルの、ママが一人でやっているスナックでカラオケ三昧。
終電のつり革にぶら下がり、1時間半の帰路につく。
だいたいこれの繰り返しで、じゃあ一体どうしたいのか?は最後までわからずじまいでしたね。
たしかそこにいた人たちは、後年、部長や支店長くらいにはなった人もいましたが、役員や関係会社の社長にまでなった人はいなかったですね。
・・では役員や関係会社の社長になった人の話はどうかというと・・
こちらも時折ご一緒したことがありますが、やはり「今ここにないものの話」が主体。
これが全体のだいたい70%を占めていたように思います。
しかし前出の彼らとは少し違っていたのは残りの30%。
「オレが部長になったらこうしてやる」
「オレが役員になったらこうしてやる」
前出の先輩方同様、現状の批判はするものの、今ここにないものをどうやってやるか。
そんな話が含まれていました(もちろん、なったこともあったし、ならなかったこともありましたけれど)。
基本、今ここにないもの、つまり「課題を解決したい」という内容だったと記憶しています。
その後仙台に戻り、父の仕事を引き継いだ私は、経営者の方と酒席をご一緒する機会が増えました。
若い頃の私は意外と聞き上手な面も持ち合わせていたので、お話が面白い社長さんには、相槌を打ちながら、いろんな質問をしたりしました。
もちろん経営者と言っても十人十色です。
大きい会社の社長、小さい会社の社長、創業社長、後継社長、オーナー社長、そうでない社長などなど・・
だから酒席でのお話も十人十色。
しかしながら会社を成長させた、社長さんの話す内容にはいくつかの共通した特徴があったように思います。
・仕事より、面白い体験(失敗談多し)の話や社会現象や趣味の話などが多く、基本的に話題が豊富。
・自社内のことや、親戚・家族などの内輪話はあまりなし(聞かれれば、面白おかしく答える程度)。
・たまにする仕事の話は、たいてい現状がどうこうというよりも未来の話。
こんなふうにしたら、このサービスは日本中に広がるんじゃないか?
やがて自分の仕事はこんなふうに変わっていくのではないか?
いつか社員にはこんなふうになってほしい。
つまりこれまでの2パターンとは違って「いま無いものの話」ではなくて、「未来にあるもの」の話と言ってよいのではないかと思います。
この方々、マイナスな現状の話をせず、プラスな未来の話ができるから成長したのか、成長したからそんなことが話せるのか、今持って不明です。
そして自分もいつのまにか若くもなくなり、酒席でも自分が話をして若い人が聞いてくれる、そんな時間が長くなってきたように思います。
・社会現象の話ができるように、いろいろ体験してみる。
・失敗談を話せるように、いろいろ失敗してみる。
・仕事の話は未来限定。
もちろんこれはあくまでも相関(こういうグループはこういう特徴がある)のお話にすぎません。
因果関係(こうしたからこうなった)は定かでははありません。
でもこのへん心がけておくと、私でも会社を成長させることが出来るかもしれませんね。