Vol.7_「バランスシート」に載ってないモノ

皆さんは、ご自身の会社や、他の会社を評価する基準ってどうしてます?

売上高、営業利益、フリーキャッシュフロー、従業員数、創業年数、取引銀行、調査会社の付けた点数などなど様々な指標がありますね。

損益計算書やキャッシュフロー計算書を総合的に見てという方も多いと思います。

私自身は、可能なら貸借対照表(バランスシート)を一番拝見したいと思っています。

・・その前に「貸借対照表って損益計算書の前にあるあの表紙みたいなやつ?」と思っちゃった、あまり詳しくない方の為の解説を(知ってる人は飛ばしてOK)

バランスシート(BS、貸借対照表)とは?

1,真ん中を線で区切った表

2,左側を「借方」右側を「貸形」と言う

3,借方には現在所有している資産が、貸方にはその資産を買ったお金の調達先(借金、株式)が載っている。

4,貸方より借方のほうが多い場合は、その余りを自分で調達したということになり貸方にに「利益剰余金」という名前で記載される。これと株式を合わせて「純資産」と呼ぶ。

5,借方の資産と、貸方の負債(借入金)と純資産の合計は4のような訳で必ず同額になる。

6,貸方より借り方のほうが多い場合は、純資産をマイナスにしてバランスを取り、この状態を「債務超過」と呼ぶ。

と、まあこんなところでしょうか。

自社のバランスシート(BS)を見れば、固定・流動資産と固定・流動負債のバランスや、どの程度資金が足りている、足りていない。どのくらい投資に回して大丈夫なのか?いまはじっと我慢の子なのかが分かります。

また他社のBSを拝見すれば業界の特徴はもちろん、経営陣の考え方や、置かれている状態もなんとなくつかめます。

見かけは地味でもお宝をため込んだ穴熊のごとくなのか、将来を見据えたバランスの良い投資を心がけているのか、見た目は派手でも内情は火の車なのか?

さらに3年分拝見できれば、経営陣の心境まで透けて見えてくるような気がするのです。

もちろん、損益計算書(PL)や、キャッシュフロー計算書も見ますが、この2つは1年間の活動しか表していないので「これ見ていればいい」、とは全く思いません。

BSはその会社が積み上げてきた活動の結果、現在の価値がどうなっているのかを示すものですから、重要度が全く違います

バランスシートは一応、自己資本が40%以上とか、資産・負債の長短がバランスしていることとか、一応の望ましい基準はありますが、これが唯一無二の「正解」というのがあるわけではなく、社歴はもちろん、業種ですとか地域ですとか、経営陣の個性ですとかそういったものにかなり左右されます。

さすが「法人」とはよく言ったもので、このへんは人間とよく似ています。

「理想のヒト」がいるわけではなく、「理想のタイプ」があるだけということです。

皆さんの理想の会社(ベンチマーク)や競合がお近くにいらしたら、ぜひBSを入手してじっくり見てみることをオススメします。

超私的には、自己資本が過大すぎず(過小はもちろんダメ)、上手に資金調達して投資を怠らない企業が「理想のタイプ」ですね。

そんな会社の「資産一覧」とも言えるBSですが、載っている資産はいわゆる「経営の6条件」のうち「モノ」と「カネ」だけです。

残り4つの経営資産、「ヒト」「情報」「知財」「時間」をBSに載せるとしたらどうなるんだろう?

そんなことを時どき考えたりもします。

☆かつて一部上場の大口仕入先が株主様だった頃、時の常務さんに精魂込めて作ったBSをそれこそPLの表紙のように扱われ「やれやれ」と感じたことがあります。ウチの良さや弱いところも知ってほしいなぁと思ったものです。

☆バランスシート(BS)は東方貿易で大儲けしていた15世紀のイタリアで「ビランチオ」と呼ばれていたものがその原型です。仲間内であつめたお金(資本・株式)と、銀行(バンコ)から借りたお金(負債)で、船(固定資産)と仕入れ代や人件費のもとになる現金を調達し、価値のある香辛料などの商品(流動資産)を仕入れてもっと大きい現金に変え、最後は船も含めた全部の資産を現金に変え、銀行に利子付きで返済の上、余りを仲間で出資金に応じて分配する。解散後の分け前分配用の記録として生まれたBSでは、カネ、モノ以外の経営資源の4つは記録する必要もなかったんでしょうね。その後、株式会社が解散しなくなってからも数値化するのも大変だし、「等価である(どの会社も一緒)」とされてきたのでしょう。めんどくさい言い方すれば「捨象(しゃしょう)」されてきたというわけです。

☆当時のイタリアはベニスを舞台にした有名なお話に「ベニスの商人」がありますね。貿易船が沈んでしまったので、ユダヤ人の金貸し(バンコ)シャイロックに担保として出した「胸の肉1ポンド」を切り出されそうになった、若き実業家アントニオ。その恋人ポーシャが裁判官に変装して大活躍。というお話。じつは当時まだ大国とまではいかなかったイギリス在住の作者シェークスピアはユダヤ人を見たことがなく、全くの想像でこのお話を書いたそうです。「講釈師見てきたような嘘をつき」というわけです。

☆PLの中でも特に売上や利益はごまかしやすく、これだけ見ててもいい会社かどうかははっきり言ってわかりません。ライザップさんが、負ののれん代を使ったマイナスの減価償却でありもしない営業利益を出していたり、普通の会社でも架空売上や存在しない在庫を計上していたり、絶対回収できない売掛金を抱えていたり、結構色々ありますからね。

「利益は意見、キャッシュは事実」ともいわれ、キャッシュフローは重要ですが、いわゆる「キャッシュフロー至上主義者」の言説には注意が必要です。「キャッシュさえ持ってれば潰れない。昔の八百屋さんみたいにお店にぶらさっがっているカゴにお金が入ってれば良いんだ」なんて言う方もいるので要注意です。そのかごに入っている現金は、明日の仕入れ代とか電気代とかバイトに払うお金とか(将来の改装費用も)全部タグがついているわけで、それを払わずに飲みに行ってしまったり、借金返したりしたら、たちまち営業ができなくなります。

BSのことを長々偉そうに書きましたが、テニス漬けの学生時代、簿記が大の苦手。

経済学部では「簿記原論」が必修でしたが単位を取るのに2年もかかってしまった私でした・・