Vol.3_世界は毒であふれてる潔癖症型よさようなら「雑食型経営」のススメ

このレターを受けてとっている方の大半は40代以上の経営層のはずですから、皆さんきっと人一倍健康には気を使っていらっしゃることと思います。

「ウォーキングなどの軽い有酸素運動が良い」「ヨガやストレッチが一番」「いや筋トレやランニングが良い」「経営者ならトライアスロン」など行動面での健康法はもちろん、摂取すべき食べ物にも各派いろいろあるようで・・・

いわく「肉が健康のもと」「肉は食っちゃいかん」「肉も乳製品もダメ」「ビーガンがイマドキ」「青魚でアタマも健康に」「納豆食ってりゃ間違いない」等々

しかし、皆さん不思議には思いませんか?

人間の食べ物は99%、動植物ですから生き物か「元」生き物です。

「私、人間の健康のために生まれてきました! 私を食べて健康で長生きしてネ!」

などという、まるでお釈迦様のように奇特な生き物が果たしているんでしょうか?

家畜や養殖の魚介類は、「食べられるために生まれてきた」とも言えますが、本人(?)達からすればずいぶん不本意な話でしょう。

そうなんです。生き物は自分が長生きして子孫を残せるように、なるだけ食べられないようにしているんですね。

「動物」はその名の通り動くことができますので、捕食者から逃げるために、足が早かったり、飛べたり、潜れたり。

それでも捕まってしまった場合のため毒を持つ動物もいます。

フグの仲間はテトロドトキシンという猛毒を表皮や重要な内臓に持ってますし、貝の仲間ににも猛毒を溜め込んでいるものもいます。

また、テントウムシは自らをとても苦い味にすることで鳥などの天敵から身を守っています(人間にもそんなタイプいそうですね)。

動物は動けるからまだしも、「植物」に至ってはなんせ地面に固着してますので、ある意味「食べられ放題」なんですが…そう簡単に食べつくされてしまうわけにも行かないので、色んな方法で身を守っています。

果実は種子を運搬してくれる動物のためにわざと美味しくしてますが、たいせつな子孫でありゆりかごでもある種子は消化されたりしないように硬い殻に覆われ、更に口から速やかに出してもらえるようアルカロイドやタンニン、青酸などの毒で防護されています。

また植物「自分自身」であり大切な器官である葉っぱや茎は、トゲを生やす、消化の難しいセルロースで覆う、味を苦くしたり美味しくない匂いを放つなど、、、様々な方法で守られています。

キノコはじつは地面に出ているところが本体、というわけではなく、どちらかというと地表に隠れて地面の中に広がるキノコ菌の集合体が本体であり、地面から出ているいわゆるキノコは「子実体」とよばれる部分です。

このキノコ部分は、かさから胞子を放出して子孫繁栄するための大切な器官なので食べられたくないのがキノコの本音

したがって、猛毒を持っていたり「毒ですよ〜」という禍々しい色をしているのは極めて普通のことなのです。

しかし、自分で栄養を作ることのできない動物は他の動植物を食べないと生き残ることはできません。なので、動物は様々な方法で彼等の非捕食生物の防御を打破し無力化します。

動物を捕食するいわゆる肉食動物は、より早く走ったり飛んだりして、さらに大きな牙や爪などで相手の防御を引き裂きます。また知恵やチームプレーで相手を狩るものもいます。

肉食動物に食べられる側に回ることの多い草食の動物も色々工夫しています。

トゲトゲの葉っぱをものともしない硬い舌や臼のような歯を持ち、植物が上に伸びて逃げれば高いところまで口が届くよう首を伸ばしたり、実を摘みやすい器用な鼻や指を持ったり。

それだけではありません。ウマは草をもりもり食べますが、自分で消化できないセルロースは、胃の中で飼っているバクテリアに分解してもらい、そのバクテリアを貴重なタンパク源にしています。

コアラは他の誰も食べない毒性の高いタンニンを多く含むユーカリの葉を食べます。

なので、食後のコアラは解毒のためほとんどの時間木の上で眠っています。

(もしかしたら 「ゔ〜 気持ち悪い」 とかなってるのかも)

我々、人類が属する霊長類は基本的に雑食でいろんなものを選り好みせずに食べます。

雑食であることはある意味リスク分散であり、間違って猛毒のもの一種類だけたらふく食べてしまわないように、という種としての意図もあると考えられます。

猛毒でもちょっとだけなら、他の食物で薄まって損害を減らせる、というわけです。

またサルの仲間は、他の生き物より大きな脳を持ち、毒物を巧妙に避けて摂取します。人間はさらに言語を操り、伝承や書物によって更にリスクを避けています(今回はそれがいきすぎると、というお話ですが)

それでも毒が避けられない場合、さらに我々動物には大きな武器があります。

それは人間では体重の1/50をしめ、大きさでは肺と並んで最大級の臓器、肝臓です。

肝臓には様々な機能がありますが、一番大きな役目は「解毒」。

我々が摂取する食物に含まれる様々な「毒」を黙々と解毒し続けてくれています。

なので我々は猛毒のアセトアルデヒトに変化するアルコールを摂取しても、度を越さなければ翌日平気で起きられるわけですね(繰り返しますが度を越さなければ、ですよ)。

つまり、自分で栄養を作ることが基本できない我々動物の仲間は、普段毒にまみれた食物を危ないやつはスルーしたり、それほどでもないものは解毒しながら、日々無事に生きている、ということなんです。

だから、ちょっとくらい体に悪いとされる成分が入っていたり、ちょっとくらい賞味期限が過ぎていたり、地面に落ちて3秒以内(?)の食べ物にいちいち神経を使ったり、捨てたりしてストレスをためたり、大切な環境を逆に毀損したりしていることの意味、そして・・・

健康のためにあれやこれやの食事制限をして、その埋め合わせにほとんどわずかな効能しか「期待」できない健康食品を大金をはたいて購入し、ボリボリ摂取することの意味について、考えて見る必要があるのではないか、ということです。

もしかして「健康のためなら死んでもいい!」ということになってはいないでしょうか?

食べ物だけでなく、日常生活もそうですよね。

私達は屋内にいても自然・人工問わず一定量の放射線を浴び、外出すれば時には黄砂の混じった大気の中で過ごしますが、限度を超えなければ健康に過ごすことができます。

鉛でシールドされ、空気清浄装置のついた部屋にこもることは可能ですが、もはやそれは健康な生き方とは呼べないでしょう。

紫外線を怖がって日光を避けすぎると、日光によって皮膚で作られるビタミンDが不足し、骨粗鬆症の原因となりかねません。

社会生活もそう。ホームから転落するのを過度に恐れば電車に乗れなくなり、権力の潔癖でないことを嫌って極端な反権力となれば、さらに大きく自由のない権力に絡め取られる危険が増します。

この話は、企業経営でも一緒です。

もちろん企業にとって死に至るような、猛毒を含む問題は早急に取り除かなければなりません。

しかし、毒の程度を見積もらず、あらゆる問題をしらみつぶしに取り除こうとするあまり、本来、その企業の利益を担保している物事にまで手を突っ込んだり、問題となる部分にばかり気が向いて、社会的にも有意義で今後数年いや10年以上、企業の維持発展を可能にする新規事業に取り組まなかったり。

そのくせ、成熟し伸びしろのない事業に対し、流行りの経営法を次から次に取り入れて、当然のごとく成果は上がらない・・・

自らの解毒力・見えない長所を過小評価し、全体最適を忘れた潔癖症的な経営をしてしまっているなら、それこそが「死に至る病」だと考えているのですがいかがでしょう?

症例1:魅力的な新市場を新種のウィルスのように恐れて千載一遇のチャンスを逃す

アメリカのゼロックス社は1959年に現在も使われるコピー機を生み出しました。

更に1970年、自らがパロアルト研究センターを作って現在のパソコンの原型まで生み出しましたが、本業ではなぜか従来の光学式のコピー機にこだわった結果、デジタルデータを直接印刷する複合機市場に乗り遅れ、子会社であった富士ゼロックスから買収を提案されるほど凋落しました。

原因は極度に失敗を恐れ、手続き論にこだわった官僚的企業文化だったといいます。

症例2:延命が難しい既存事業にこだわりそこに最新手法を取り入れて失敗

1938年m当時最新の空力設計により流線型のボディーを持つイギリスのマラード号は時速203kmという蒸気機関車の世界最高速度記録を下り坂で樹立。

しかし、電気機関車が1903年すでに試験走行で200Kmを突破していた当時、運用上の最高速度がせいぜい時速100Km前後の蒸気機関車に空力設計を持ち込み、こんな記録を残すことは必要だったんでしょうか?。

その後、流線型カウリングを施した車両は日本を含む各国で導入されましたが、1950年を境に蒸気機関車そのものの開発がストップ、一気にディーゼル化・電化が進んでいます。

症例3:「〇〇食べてりゃ間違いない!」「〇〇健康法」のごとく過去の小さな成功をシングルイシュー化 部分に力を注ぎすぎて全体の利益を損なう。

前回のレターでも少し触れましたが、当社が成長していく中で私は意識的に普通は下げるべきとされる労働分配率の向上を図りました。

予測営業利益の3割を「期末手当」として分配する制度の導入で社員の利益意識を高めた経験から、「高い給与だけが社員満足を生む」他の問題解決には目もくれず邁進し続けた結果、給与水準はぐんぐん上昇しました。

しかし皆が「お金がもらえて皆満足」だったのは最初だけ。「社内がギスギスしてきた」「こんな仕事したくない」など社員からの評判もどんどん下がり、「(実は条件が良いので)誰も辞めないが、(それだけなので)誰もがが不満な会社」に成り下がってしまいました。

そのせいか業績も急降下、TKCさんの格付けも正常先ギリギリまで下がり、やっと昨年様々な手をうち、全盛期に近いスコアまで戻しました。

実は私自身が、「潔癖症経営」に陥っていたわけですね(笑)

当社が今年度からミッションやバリューに「エンゲージメント(互いを尊重する心)」と「リレーション(つながる心)」を取り入れたのはそんなわけからなのです。