Vol.2_茶そばなのに緑色?常識の決まり方

16歳のころ、ある不思議な体験をしました。

そのころ新装なった仙台駅のレストラン街を家族で歩いていたときのことです。

思春期のまっさかり、親への反抗心も目覚め始めた私は、嬉しそうに両親と歩く弟たちを尻目に、仏頂面で歩いていました。

ちょうど心の変化が始まるその頃、もしかするとその華やで屈託のない風景に、なにがしかの居心地の悪さや恥ずかしさを感じていたのかもしれません。

で、そこの蕎麦屋さんのショーウィンドウで産まれて初めて見た「茶そば」の食品サンプル。

関西や都会ではおなじみのものなんでしょうが、まだ新幹線も開通する直前の仙台では恐らく初お目見えの時期だったんではないかと思います。

初めて見る、せいろに盛られたその「茶そば」は鮮やかな緑色でした。

その時、私の頭の中で何者かが私に囁きかけました。

「茶そば なのに 緑?」

「茶」いうからには「茶色」でなければならないはずのそばが「緑色」

しかも気づいてみるとこれまでなんにも考えず食べていた普通のそばは「茶色」

家で何も考えず普通に飲んでいた煎茶は「茶色」ではなく「緑色」

だから「茶そば」は「緑色」

でも茶色のそばは「茶そば」じゃない

これから茶色のそばを何と呼んだら良いんだろう??

これまで普通に見えていた風景が一変した思春期の出来事でした。

前々からうすうすと感じていた「常識」と言われているものの危うさ、脆さを「おそば」という実物で認識したわけです(大げさ)。

子供の頃から、「普通こうでしょ」と思っていたことがひっくり返る経験は、その後も人生の中で次々と起こりました。

・先生は何でも知っているわけではないこと。

・男より女の方が実は圧倒的に強いこと。

・赤信号はみんなで渡るより 1人で渡ったほうが良いこと。

・腕力が弱くても勝てる方法はけっこうあること。

・青少年なら当然、と思っていた「反抗期」がどうやら単なる当時の「トレンド」だったらしいこと。

・潰れるはずのない銀行がバタバタと潰れ これからまたそうなりそうなこと。

・隆盛を誇った「ものづくり(ハードウェア)」があっという間にオマケだったはずのソフトウェアの軍門に降ったこと。

・安物代表のPB(プライベートブランド)商品が質でもNB(ナショナルブランド;いわゆるメーカー品ですね)を凌駕したこと そしてNBが大手流通から受託してPBを作り出したこと(セブンプレミアムが代表です)。

・「再構築」を意味する「リストラクチャリング」→「リストラ」があっという間に「首切り」の意味に変わったこと(アメリカではさらにDownsizingに姿を変えたらしい)。

・所有の意味が法人だけでなく、個人でも薄れつつあること。

・「食うために働く」「金のあるやつが偉い」意識が年齢に比例して加速度的に薄れていること(昨今の採用難の原因は少子化だけではないようです)。

・(割と最近気づきましたが)PCを使ったことがないスマホ世代は当然キーボード入力は苦手だということ

他にもいろいろ・・・

これからも 「普通」だと思っていたことが思っていたことがどんどん普通じゃなくなる体験が増えていくと思います。

徳川の治世400年間、ちょんまげはずーっと普通のことだったんでしょうね。

だれか「おかしい」思った人はいたんでしょうか・・

そこまで遡らなくても、私が社会人になった1985年頃、女性は24までに結婚しないと「売れないクリスマスケーキ」と呼ばれました。

さらに、保険会社の女性営業パーソンは、下着姿の白人女性がうつったカレンダーを配りまくり、私達はなんの疑問もなくそれを卓上に置いてました。

さらにさらに、私よりずーっと年上の文学者は文化庁長官時代「男は女性を強姦するくらいの体力がないと」という雑誌への寄稿で問題になりました。

1980年代、一般社会では長男は女性に人気がなく、理系男子は「ネクラ」扱いでさらに人気がありませんでいた。

今や就職も含めて理系は大人気。文部科学省が「文系はあんま意味なくね」と誤解されかねない文書を出した、と報道されるくらい文系は人気がありません。

ベストセラー「ファクトフルネス」の著者であり、ギャップマインダー財団のディレクターを務めた故ハンス・ロスリングはこういった時代の流れが原因で発生する諸問題の原因を「アップデートの問題」と名付けました。

また、フランス文学者の内田樹は「常識10年 倫理100年 宗教1000年」と、その賞味期限を表現しました。

私達は、10年前の「普通(常識)」で「今」を判断してしまっているのかもしれませんね。

ちなみに葉っぱの色ではなく土みたいな色を「茶色」と呼ぶのは、室町時代に流行ったお茶の葉で染めた布(茶染め)があの色だからだそうで、なんと600年前の常識に私達はいまだ従っている、というわけです。

☆おまけ☆

「ファクトフルネス」のハンス・ロスリングが、過去の常識にとらわれてしまっている私達のために作ったクイズがあります。

世界の事実に関するクイズですが全部3択式なので、デタラメに選ぶはずのチンパンジーなら正答率約1/3の、

人呼んで「チンパンジークイズ」

問題:「 現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?」

A 20% B 40% C 60%(答えは下にスクロールするとでてきます)

気になった人は「チンパンジークイズ」でググってみてください。翻訳者の上杉周作さんがクイズページを作ってくださっています。(https://factquiz.chibicode.com/

正解はCの60%です。 皆さんわかりました?

え、私? もちろん間違えましたよ(笑)