Vol.36_高けりゃいいってもんでもない ハイコンテクストの罪 「月がきれいですね」で伝わればいいけれど・・

「吾輩は猫である」「三四郎」などなど、読んだことはなくても、日本人ならだれでも知っている明治の文豪、夏目漱石。

彼が若かりし頃、英語の教師をしてたそうなんですが、その時「I love you.」を学生が「我君ヲ愛ス。」と訳したところ・・・

「それじゃあダメだな。古来日本人はそんなとき、『月がきれいですね』って言うんだよ。」

と言ったとか言わなかったとか・・

このように、これまでの経緯(文脈)や、言葉以外の表情や、身振りなどを交えて、直接的な表現をしないで伝えるコミュニケーションを「高文脈」「ハイコンテクスト」というそうです。

なんでも日本語は「ハイテクスト言語」と呼ばれるくらい、同じことを言ったり書いたりしても、前後の文脈や状況で意味が大きく異なるコミュニケーションツールらしいです。

たとえば「検討します」といっても、

「課題を持ち帰って後日お答えします」なのか

「やりません」

なのかは前後の状況や相手の気持を察していかないと、わかりません。

「じゃあ勝手にしろ!」といわれて「ありがとうございます」と答えれば大抵の場合は揉めるわけです。

ハイコンテクストな表現はとても便利なところがあって、いちいち説明しなくても短い言葉で(場合によっては言葉すらなくても)で深い意思が通じてしまうわけです。

熟年夫婦の「あれ どうしようか?」「あれならちゃんとやっておきましたよ」

(昨日作りすぎたあのカレーならちゃんと小分けにして冷凍しておきましたよ)

名曲「兄弟仁義」の「俺の目を見ろぉ なんにも言うな〜」

(これから殴り込みにいく俺を止めるな。出所するまでいいなずけのことは頼んだよ。)

皆さんの会社にもきっといちいちこまかく言わなくても通じる業界用語や社内用語があるとおもいます。

私が最初に入った会社では、行き先掲示のホワイトボードの末尾に

「NR」と書いてあれば「帰ってこないよ(ノーリターン)」

「DG」と書いてあれば「家から直接行きます(ダイレクト・ゴー)」

という意味でした。

「加藤係長、今日もDG・NRだってよ」なんて使われ方でした。

元々社長をしてたエースグループの事業会社ミカド電装商事は、蓄電池設備をというものを扱っておりまして・・・

ここでは、「VTR」というと一般に言う「ビデオテープレコーダー」のことではなく「電圧検出リレー」です。

現場では「沢田! おまえがVTRの設定確認ちゃんとしてないからドロッパが入っちゃってんじゃん! これじゃ負荷が落ちちゃうよ(怒)。」

というふうに使います。

私達にはこれで十分通じますが、おそらく電気と関係ないお仕事の方にはさっぱりでしょう。

そうなんです。ハイコンテクストな表現は、同じバックグランドや体験を持つグループ内でのコミュニュケーションでは大変便利なものですが、一歩外に出ると全く通じない恐れがあるんですね。

一方ハイコンテクストに対してローコンテクストという言葉もあります。

こちらはローだから「ダメなコミュニケーション」ということではなく、単に文脈や背景に頼らない表現でのコミュニケーション、という意味です(さきほどの熟年夫婦や兄弟仁義のカッコ内のような表現ですね)。

ローコンテクストな表現を使うと、組織や集団、国や民族を超えて伝わるコミュニケーションが可能になります。

「そんなの中小企業に関係ないよ」と思われた方は要注意!

御社のウェブサイトの反応率の低さ、チラシの効かなさ、求人広告の反応の薄さ。

これ、ハイコンテクスト表現をローコンテクスト表現に変えるだけで解決できるかも知れません。

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ハイコンテクストな表現、実は社内でも通用しないこともたくさんあります。

社長「ゴミが落ちてるね」 

新人「ほんとだ!だれが落としたんでしょう?」

となった場合、悪いのは新人社員でないと考えるのがローコンテクスト。

ハリウッド映画や、ディズニーのアトラクションは「愛」「家族」「勇気」など徹底的にローコンテクストにこだわって制作されてます。

だから世界中どこに行っても通用するわけ。

冒頭に書いたとおり日本語は「ハイテクスト言語」とも呼ばれ、SVO「主語 (Subject) – 動詞 (Verb) – 目的語 (Object) 」が揃わない曖昧な表現でも通用してしてしまうところがあります。

しかし、文脈が共有されず様々な誤解がうまれたり、文脈を無視した意図的な曲解が生まれてしまうこともたくさんあると思います。

これ以上、国際的にガラパゴス化しないためにも、ビジネスの現場でのムリ・ムダ・ムラをなくすためにも、日本語もそろそろ「ローコンテクスト化」を図る時期が来ているんじゃないかと思うわけです。

最後にNHKの「やさしい日本語(主に外国人向けのローコンテクスト表現)」で書かれたNEWS WEB EAZYから記事タイトルのご紹介。

「首都直下地震が起おこったら 亡なくなる人は6000人以上」

普通の記事では

「首都直下地震 新想定 「災害シナリオ」 東京はどうなる…?」

これで「大変なことが起こる」と予測しながらタイトルをクリックする外国人はたしかに少ないでしょうね。

「月がきれいですね」が愛の告白とは思わないのと同じように・・・

☆ハイコンテクスト文化の極みのような京ことば。

「ぶぶ漬け(お茶漬け)でもどうどす?」=「(これ以上お構いできないので帰って)」

というのは有名ですが

私自身も「考えておくわ」=「(お断りします)」がわからず怒られたことがあります(実話)

さらに「あんた、いい時計はめとりまんなぁ」=「(腕時計見なさい。もう良い時間だから帰ったら?)」という恐ろしい表現も、あるとかないとか・・