「弱くても勝てる」経営5、最終回 「ロジスティックスの経営上での事例  歴史とビジネス界のロジスティックス勝者から学ぶ勘どころ」

4回にわたり「弱くても勝てる」経営と題しまして、以下のように私なりの「ロジスティクス」の解釈や歴史上の事例についてお話してまいりました。

  1. 弱いのに強かったローマ帝国に学ぶ(ミリタリーロジスティクスから考える)
    知力ではギリシャ人に劣り、体格ではゲルマン人に及ばないローマ人がなぜ世界帝国を作れたのか?
  2. 「強いのに弱い?日本」の歴史に学ぶ
    なぜいつもいいところまで行って負けてしまうのか?
  3. 「日本史ロジスティックス決戦!」(その1)
    沢田が日本の歴史から選ぶロジスティクス上手ベスト3
  4. 「日本史ロジスティックス決戦!」(その2)
    沢田が日本の歴史から選ぶ「戦闘力が高くてもロジスティックスで破れた」日本史上のワースト3

ほんとにしつこいですが「ロジスティクス」は通常日本で使われる「物流(物理的流通」とか「運送業」という具体的な「コト」を指しているのではなく、もう少し広い概念です。
Web英英辞書サイト「Cambridge Dictionary」には「 the careful organization of a complicated activity so that it happens in a successful and effective way 」と書かれていて日本語にすると
「複雑な活動計画を注意深く 整理し、それが成功し効果を生むようにする方法」
つまりロジスティックスは、物資を運んで届けるなどの具体的な「モノ」「コト」を指すのではなく「効果を生む方法」、つまり「ソフトやスキル」ということなんですね。
さて今回は連載の締めくくりとして、歴史からだけではなく、私達の本業であるビジネスシーンで現在目の前で起きている事例と、私達が取るべき具体的な方法論についてお話したいと思います。
ではさっそく始めましょう

ロジスティックスのビジネスにおける具体的な方法論(1)・・物理的距離を詰める 
具体的事例 アイリスオーヤマ ジャパネット
太平洋戦争における旧日本軍の攻勢は、石油資源などを獲得するため、作戦本部がある日本本島から遠く離れて南方へ前線を展開したために兵站(補給線)が伸び切ってしまい、そこを米軍に叩かれて破綻しました。

一方、朝鮮半島をまたたく間に支配下に置き、加齢の問題さえなければ成功していたかもしれない、秀吉の唐入り「明に向けての遠征」は、朝鮮半島・中国大陸への玄関口、現在の佐賀県唐津に人口10万人規模の大軍事都市「名護屋城」を築くことから始まりました。
秀吉はこの支援基地の唐津名護屋城から20万人の兵力と物資を彼の地に送ったと言われています。
ロジスティックスの成功を考える際、物理的な距離をどう解消するかは、まず第一に考えなければならない問題です。

作戦本部(策源地というそうです)と、実際に作戦を行う場所(戦時においては戦地)が離れすぎていると
1,物資の補給や連絡のタイムラグ。
2,現場を直接見ることが少ないために、現地からの報告に頼って本部が判断してしまうことによる作戦ミス。
が起きてしまうリスクがあります。

アイリスオーヤマは創業当時東大阪に工場がありましたが、当初の大口顧客が岩手県三陸地方(漁業網用の成形プラスティック製浮球;ブイ)だったため、現場に近い宮城県に工場と、後に本社を移しました。

当初は東京の撮影スタジオからテレビ通販用の番組を放映していたジャパネットたかたは、本社がある佐世保に専用の巨大生放送用スタジオをつくり、そこから通販番組を生中継しています。
皆様の会社でも、社長室や総務部と営業や生産の現場が遠く離れていたり、フロアが違ってたりしませんか?

御社で発生している数々の課題、じつは物理的な距離から生まれているかもしれませんよ?

ロジスティックスのビジネスにおける具体的な方法論(2)・・時間を跳躍する(冗長性・ボトルネック排除)
具体的事例 トヨタ生産方式 DX(デジタルトランスフォーメーション)
本能寺の変でトップの織田信長を失った羽柴秀吉は、その時岡山で毛利軍と戦っていましたが、訃報を知るや素早く毛利と講和を結び、約230Kmの行程を10日間で走破して、京に戻ります。

京の都のまわりには、丹羽長秀、柴田勝家、秀吉など名だたる諸将が不在であることも明智光秀が事を起こす動機の1つであったはずです。
秀吉のあまりにも速い帰還に対決の準備ができていなかった明智光秀は山崎の合戦で敗れ去ります(中国大返しと呼ばれています)。

フォードを代表するベルトコンベアによる自動車の生産は世界にモータリゼーションを引き起こし、大量生産時代の幕開けとなりました。
一見迫力満点のフォード方式はたしかに一度にたくさんの自動車を作ることが出来ますが、原材料がベルトコンベアに乗って最終製品になるまでを見ると、実は意外と時間がかかっています。
なぜなら、どんなにベルトコンベアのスピードを上げてもあのチャップリンの「モダンタイムス」のワンシーンのように、各工程の作業には一定の時間がかかり、また各工程の工数差や個人差やもあるため、工程と工程の間には仕掛品(しかかりひん;次の工程に渡す出来かけ品)がどんどんたまります。

一見合理的に見えるベルトコンベア式ですが、この仕掛品の山も全部のせた一本の仮想のベルトコンベアを考えると、まるで体内から取り出した小腸のよう(キモっ)に、かなり長く、実は時間あたりの生産性は見た目ほどには高くないわけです。
この隠れた生産性の低さを発見し、その原因を「ムリ(なスピードアップ)・ムラ(工程や個人ごとのスピードの差)・ムダ(工程間の過剰な在庫)」と喝破したトヨタの大野耐一は、この3つを徹底的になくすことで、ラインの冗長性とボトルネック(この話はまたいずれ)を排除し、圧倒的な生産性を確立し、アメリカに日本車輸出の豪雨を降らせ、日米自動車摩擦を引き起こします。

大野耐一の方法論はやがて「トヨタ生産方式」と呼ばれ、それを参考にアメリカのシンクタンクが「リーン生産方式」を開発、さらにTOC(Theory of Constraints;制約理論)が登場し、世界的ベストセラー「ザ・ゴール」が出版されるわけです。
事実、TOC生みの親にして「ザ・ゴール」の著者エリヤフ・ゴールドラットは生前、大野耐一を非常に尊敬した発言を繰り返しています。
皆様の会社でも、担当者間・部門間での引き渡し時に発生する書類の停滞や、取りまとめ、転記・コピーなどで、ゴールまでに相当な時間がかかっている様々な業務があるはずです。
まして、それが「仕事」だと勘違いしてせっせと「ムリ・ムラ・ムダ」を大量生産していたら目も当てられませんね。

デジタル化・IT化を進めたつもりでも、「ムリ・ムラ・ムダ」がそのまま残っていれば、ただただ「ムリ・ムラ・ムダ」を高速に大量生産しているに過ぎません。
(代表例;社内書類のメール添付による承認や回覧、エクセルでの帳票共有)
皆様の会社がデジタル化で大きな成果を上げたいのならDX(デジタルトランスフォーメーション)が欠かせません。

つまりデジタル技術で「ビジネススタイルをより良いものに変革」しないと、実にもったいないんです。
スマホが万人のためにあるように、DXは決して上場企業のためだけのものではありません。
ちなみにエースラボでは現在、
・皆様の会社の業務を現場への聞き取りや観察からモレなく「見える化」
→「ムリ・ムラ・ムダ」を取り除いて業務の冗長性・ボトルネック排除
→GoogleワークスペースなどのローコストなITツールによるDX化実現と状況の変化に柔軟に対応するメンテナンス
でお客様の生産性アップをお手伝いしています。
もし気になりましたら、お気軽に聞いてください(宣伝しました)。

3,ロジスティックスのビジネスにおける具体的な方法論(3)・・余力を持つ

具体的事例 アイリスオーヤマ ソフトバンクグループ
さっき「ムリ・ムダ・ムラ」をなくせと書いたのに、一見ムダに見える「余力」が大切っていうのは一見変ですが、まあ続きを読んでください。
紀元前371年、当時最強の都市国家であったスパルタと、隣接する小国テーバイの間で行われたレウクトラの戦いで、テーバイの将軍エパメイノンダスは、兵力ではるかに劣るのにも関わらず、全兵力8000のうち800を隠し予備兵力として配置しました。

横陣の正面衝突に見せかけてエパメイノンダスは上から見たら薄い直角三角形のような斜行陣を取り、ぶつかりながらわざと両陣形を少しづつ回転させます。
厚みのない側のテーバイを押しに押すスパルタの主軍が少しづつ回転して横腹を見せたその時、エパメイノンダスは隠しておいた予備兵をその横腹に突っ込ませます。
たちまちスパルタ軍は大混乱、大兵力で楽勝だったはずが、2割近い損害を出して退却を余儀なくされました。

エパメイノンダスが「戦術の父」と呼ばれることになる、予備兵力を使う戦術はその後の戦においても多用されます。
紀元前216年、「戦略の父」こと名将ハンニバル率いる5万のカルタゴ軍と8.3万のローマ軍で行われたカンネの戦いではハンニバルの予備兵力8000が勝敗を分け、ローマ軍の85%が戦死することになりました。
ビジネスにおいても、予備兵力は大切です。
アイリスオーヤマの大山会長は普段から「工場建屋の3割は空けておくように」と指示していたそうです。

2020年コロナショックによるマスクの供給不足が続いた春先に、当社は30億円を投じて宮城県の角田工場(宮城県角田市)に生産設備を整え、7月から生産を開始。8月には月産1億5000万枚の体制を整えることができました。
大山会長は「あえて余力を残しているからこそ、今回のような大きな需要の変化があったとき、チャンスを逃さず対応できる。だから、ピンチがビッグチャンスになったのです。」と話しています。

また、5月12日に孫正義氏率いるソフトバンクグループが発表した2022年3月期決算は世界的に成長株が下落したあおりを受け、最終損益が日本経済史上2番めを記録する1兆7080億円の赤字だったそうです(1番はみずほフィナンシャルグループが2003年3月期に計上した2兆3771億円)。

しかし彼は「しばらくは守りに徹する」と逃げも隠れもせず、堂々としています。
孫さんが涼しい顔をしていられるのは、有利子負債が主とはいえ、ソフトバンクグループが「手元の現金は十分に確保している」からなんです。
しかも手元流動性は、直近3ヶ月でむしろ30%増やすことに成功しているんだとか。
巨額の赤字に目をとらわれがちですが、ソフトバンクグループは今後も乱高下を繰り返しながら結果的には成長していくのでは? と私は思います。

逆に「渋滞学」も教えてくれる通り、効率化を図るために余裕を持たずにキツキツの車間距離を保ち高速で移動すると、一時はスムーズに走れ結果が良いようですが、いったん何らかの理由で先頭の車のスピードが落ちてしまうと、たちまち玉突現象的に車列が動かなくなってしまい、結果は最悪の大渋滞になってしまいます。

実は「法定速度で車間距離40M」が渋滞を防ぐ最適条件だそうですよ。
皆様の会社でも、資産効率や自己資本比率を高めようとして、無理やり無借金経営にすると手元流動性が下がって、いざというとき倒産の危機に見舞われかねません。
会社が潰れる直接の理由は、赤字や借金ではなく現金不足による不渡り等です。
「合理的」というのは実は効率と安全のバランスの上に成り立つものなんですね。
今回同封したエースラボの「出張経理課長」と「出張CFO」はそんな合理的な余力を皆さんの会社にもたらすサービスです・・・と最後にまたまたご案内させていただきます(笑)。