経営やってみたラボ、14 私がキャッシュフロー経営に(あまり)賛同したくないわけ

「やっぱさー、これからはキャッシュフロー経営だと思うわけ」

今を去ること数年前、居酒屋で経営者仲間A君の言葉を聞いて私はこう思いました。

(わ こいつも例のあの話すんのか・・・)

案の定、彼はこう続けます

A「昔の魚屋さんって、店の中にお金の入ったザルを吊ってたでしょ?

お客からもらった代金をそこに入れて、お釣りもそこから出す

営業が終わってザルの中に明日の仕入れのお金が入っていればいいわけ

とってもシンプルでいいよな。これからは損益計算書じゃなくてキャッシュフローだよ」

「ふーん、毎月かかる電気代はどうするの?他にも行き先が決まっているお金があるよね?」

A「そりゃー別のザルに入れてだな・・」

「ほ〜 じゃあ減価償却はどうすんの?」

A「えー あんなものやってもやんなくても一緒でしょ? 年に一回税金の計算のときに引くだけのやつじゃん。だいたいあれで営業利益減るしぃ。」

「減価償却しなかったら、次にお店の冷蔵設備とか車を買い換えるときのお金はどうするの?」

A「だから、それはまた別のザルに」

「それじゃ結局PL(損益計算書)つけてるのと一緒でしょ?そんなザルばっか増やしてどうすんの?」

A「なんでお前はそういうへ理屈言うの?? キャッシュフロー経営ってのはもう世界中の流れなんだからそれでいいの!」

「そんなことよりPLとBSしっかり見たら?

キャッシュ(現金)が大事なのはわかるけど、PLの営業利益からいずれ現金が生まれるし、BS(貸借対照表)の流動資産見れば現金と、ほぼ現金の資産がわかるでしょ?」

A「まま そんなことより、ここの刺し身うまいね。お前も食ってみ。」

 

「キャッシュフロー経営」という言葉が使われだして、どのくらい経つでしょう。

世には「キャッシュフロー経営」をうたう書籍があふれています。

ちなみにAmazonで「キャッシュフロー経営」の本を探すと結果は37ページ分表示されます。(1ページ目しか見てませんが17冊紹介されてましたから、単純計算で600冊以上ってこと??)

おそらく「キャッシュフロー経営本」読者の8〜9割は中小企業の経営者か役員でしょう。

本のおかげかどうか最近でこそA君のような「ザルキャッシュフロー」論者は減りましたが、上場企業しか提出義務のないキャッシュフロー計算書を決算書につける中小企業も増えているようです(ウチも税理士さんがつくってくれます)。

しかしアマノジャクかも知れませんが先述の通り、「中小企業にキャッシュフロー計算書は必要なの?」「中小企業にとっては余計な手間がかかるだけじゃない?」というのが正直な私の意見です。

それにしてもなぜ中小の社長さんはこんなに「キャッシュフロー(以下CF)経営」が好きなんでしょう? 

と、いうことで私が勝手に考えた、中小の社長さんのCF経営好きな理由5位から2位の発表です!

5位 いつも資金繰りで困っている

4位 BS・PLがずさんな経理など何らかの理由で実態を反映していない

3位 BSの見方、PLの減価償却や引当金の考え方がわからない

2位 「キャッシュ」という言葉に弱い(私もです)

5位から2位について私は以下のように考えています。

5位 もしかして、借入れにマイナスのイメージ持っていませんか?それが原因で積極的にアプローチできてないんじゃありませんか?消費のための借金はもちろんいけません。でも、企業の借金は家庭のそれとは全く違うものですよね。いずれ入ってくる現金のための借入れは成長を目指す企業にとって絶対必要です。A行がダメでもB行があるさ。積極的に複数行に相談して低利で多めに借り入れして未来に備えましょう。その後は前向きに事業に取り組みさえすればOKです。

4位 体面やうわべの評判より実態の把握が最優先。今の帳簿をほったらかしにしておくといずれどこかで破綻が待っています。損失でかく恥は一時のものです。ゆでガエルのまま死を待つより、特損出してでも思い切って帳簿をきれいにしましょう(銀行もそちらを推奨するはずです)。やるべきことがはっきりして、ぱっと視界がひらけてきますよ。

3位 減価償却や引当金は簡単に言いますといずれ必ずやってくる社屋や機械装置の未来の費用を先取りしておく」ということです。今のうちしっかり計上し、その残りの利益でどうするか考えていかないと、夏休みの宿題のように後が苦しくなりますよ。

2位 たくさんのキャッシュ(現金)というのはとても魅力的です。でもね、お金って意味もなくただ持ってるだけだと、腐って会社にとって毒になってしまうんです。会社を健康体に保っておくためにも事業に投資してしっかり働かせないといけません。

そしてお待たせしました!中小の社長さんのCF経営好きな理由、ダントツ第一位は

「CF経営がこれからのグローバルスタンダード!CF経営がトレンドでしょ!」

たしかに日本でも、2000年から上場企業にCF計算書の作成が義務付けられていますし、最近ではあのソニーが、今後の経営目標を「営業利益」から「営業CF」に切り替えることを宣言しています。

実はソニーを始めとするグローバルな日本の「国際会計基準」適用企業と一般的な日本企業の(つまり我々の)会計基準において、PLの「営業利益」は似て非なるもの!

国際会計基準においては、特別収益(不動産や株式の売却益)が売上に計上されるため、PL上の営業利益は盛大なお化粧が可能なのです。

つまりソニーのCF重視宣言は「そんな株価対策みたいな過去の場当たり的な経営から脱却し、より長期的な経営に移行しますよ」というものなのです。

でもね、非上場の中小企業(上場の中小企業はないか)が採用する国内の会計基準で考えれば、PLのいずれ現金化される「営業利益」と、CF計算書の「営業CF」は、PLにお金にならない売掛金や在庫でも計上してない限り「経営判断上ほぼ一緒」なんです。

だから国際会計基準のPLでも使ってない限り、CF計算書を元になにか判断するCF経営というのはないと言い切ってもいいでしょう。

そういうわけなので

「株主がほぼ身内の中小企業にとってCF計算書は高価なおもちゃ、実用的には特になくてもいいんじゃない?」

「もし、中小企業が中途半端にキャッシュフローを気にするようになったら、目先の現金確保や、投資の抑制で縮小均衡を目指すようになって、ジリ貧になるんじゃない?」

と考えているわけです。

もちろんキャッシュ(現預金)は大切です。お金を払えない瞬間、会社は潰れますから。

「中小企業が継続発展するためには、

1)第一にキャッシュの源泉であるPLの営業利益向上をはかる。そのためには大胆な事業の入れ替えや業務改善も辞さない。

2)次に市場から資金が集められないのだから銀行とタフに交渉して(可能な限り長期借り入れによって)現預金を確保する。

3)最後に将来のキャッシュを生み出す投資を怠らない姿勢をしっかりキープした上での、右肩上がり(流動資産が多くて、固定負債と資本が大きい)のBSづくりに取り組む

ことこそが重要で、CF計算書は補助的に役に立つことはあっても、メインに考える必要はない。」

それが、うわべのトレンドに流されない、「私達の考えるべきキャッシュフロー経営」ではないでしょうか?

・・・とまあそんなわけで私はキャッシュフロー経営に(あんまり)賛同したくないんです。(もちろん正しく理解し活用しているすばらしい経営者の方も多数おられると思います)

ここまで、わかったようなことを申し上げましたが、告白しますと私自身、(テニスとパチンコ主体の生活だった)経済学部の学生時代には「簿記原論」の単位を2年にわたって落としたツワモノでした。

ですから最初の頃は「今期さえよければ」という気持ちでと言うザルキャッシュフローに近い考え方で会社を経営していたと思います。

正直、赤字決算で株主総会を迎えたくなくて2期ほど減価償却をサボったこともあります。(これで余計な税金払ってキャッシュ失ってたんだから目も当てられませんね)

BSもきちんと見て経営できるようになって、せいぜい10年ちょっとというところではないでしょうか。

将来は国際会計基準を参考に時価評価、無形資産を取り入れた未来志向のBSや、特定の事業にこだわらないPLでグループ経営を行っていきたいですね。

そのときには、絶対キャッシュフローがKPI(重要な事業目標)になっているはずです。

以上、中高年経営者の主張でした。 異論反論お待ちしています。

☆おまけ 「ザルキャッシュフロー経営?」で現金だけを大切に、投資を怠り、支払いをケチり、延ばすだけの「シブチン経営」でにキャッシュを増やした企業の事例はあります。「金持ってんぞ!」というわけです。しかしそんな手法で目的のない現金が積み上げたところで、いちばん大切な信用をただ換金しただけのこと。この流れは不可逆的で信用を金で買い戻すのは至難の業と考えます。そういう会社にゴーイングコンサーン(継続企業の前提)や発展があるのでしょうか?? ただ手入れされていないボロボロの会社と醜い親族間の相続争いの種を残すだけに思えるのですが・・

☆☆おまけ 国際会計基準についてもうちょっと書きますと、日本では毎年定額で行うことになっている減価償却も時価で「自由自在」。さらにライザップがやったように「マイナスののれん代」を計上して営業利益を増やす、なんてグレーな離れ業もできてしまいます。