赤字対策にいそしんでいるといつの間にかハマってしまう 粉飾決算のワナ

前回は「赤字は悪?」というタイトルで、一時的な赤字をのがれるための、仕入れ、外注工賃、人件費などの固定費削減を図ることの危険性についてお話しました。

正月早々縁起でもありませんが、今回はさらに危険な粉飾決算についてのお話です。

「粉飾決算?」もちろん読者の皆さんはそんなものには縁もゆかりもない、模範的な経営者ばかりとは思いますが、「以て他山の石とせよ」、決してご損はさせてませんので、ぜひ続きをお読みください。

オリンパス、東芝、カネボウ、ライブドア、グレイステクノロジー・・と続けば皆さんどんな会社かおわかりですね。

粉飾決算が問題となりマスコミを騒がせた国内の上場企業です。

いっぽう、私たち非上場の中小企業の場合は、粉飾決算は原則として金融商品取引法上の刑事罰の対象とはなりませんし、税務署も利益を過小に申告して法人税を逃れる「逆粉飾」のときしか動きませんので、なかなか粉飾決算が明るみに出ることはありません。

しかしながら調査会社やマスコミから得られる倒産情報の中には、「粉飾があった」とされる事例も多々見られることから、中小企業の間でも粉飾決算は大なり小なり、はびこっているものと思われます。

だとすればなぜ、一部の経営者は粉飾をするのでしょうか?

中には、一刻も早く、粉飾してでも自分の会社を公開・売却して大金をせしめたい。

今流行の「早期リタイア」、FIRE(Financial Independence Retire Early)をズルをしてでも・・・という不心得者もいるかも知れません。

しかし、粉飾決算のほとんどは、

・決算を赤字にしたくない、つまり「ちょっとした失敗」を隠したい。

・このちょっとした失敗は、すぐに翌年には挽回できるだろう。

・いや、むしろ銀行や関係先を安心させるためには、粉飾は必要悪なのではないか。

という「まあこのくらいは」とか「ついつい」といった経営者の気持ちで始まるのではないかと思います。

日経BP社が出版した「なぜ倒産 令和・粉飾編」には、粉飾決算の結果会社を倒産させた元社長たちの告白が載っています。

彼らが口をそろえて語るのは「従業員を守るために会社を潰せない使命感があった」とか「会社を成長させるため必要であった」といったような、「悪気はなかったんだからいいじゃない」と言わんばかりの主張です。

しかし正味の話、悪気なんかあったらそれこそ大変なわけで 「悪気がない」っていうのは粉飾を正当化する理由にはまったくならないのでは、と思いますよ。

だって身近で起こった実際の倒産を見れば、従業員はその力に応じて他の会社に移れますし、万一、粉飾で成長したところで、その先どうなるかは火を見るより明らかではないですか。

結局は、従業員のためでも会社のためでもなく、経営者ご本人の保身や見栄、がすべての粉飾決算の始まりではないかと思うのです。

しかし合理的に考えれば、粉飾は必ず会社の生命力を削ぎ、最終的に会社を倒産に導きます。

見栄や保身はいったん横においておいて「実際のところははどうなっているのか?」裏付けのある数字で把握して、課題があれば迷わず解決していくことが、会社の再生・成長には必要です。

先述の通り縁起でもありませんが、一休和尚の

「正月は冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」

という和歌もありますので、エースレターとしては、かの一休さんにならい、経営者にとっての「死に至る病」、粉飾決算の4段階についてお話していきたいと思います。

・死に至る病 第1段階 「減価償却をしない」

これぞまさしく純粋無垢な経営者が、イノセントマインドでやってしまいがちな地獄への第一歩。

企業は毎年、土地を除く固定資産に対して一定の減価償却をしなければいけません。

減価償却費は一般管理費として計上されますが、その年に実際何を買ったわけでもなく、影も形もない謎の経費です。

「減価償却を過小に計上すればなんとか黒字にできる」

という局面で、やってしまいたい気持ち、私にはよーくわかります。

なぜなら、私も一回やったことがあるから(恥)。

しかし減価償却をせず、資産として購入した建物や車両、生産設備が中古品として毎年少しずつ減っていく価値を、きちんと耐用年数に応じて費用として計上していかなければどうなることでしょう?

損益計算書上はそのマイナスの影響は見えず、その先の決算にも影響しないように見えます。

まあだからついつい過去の私のように減価償却をサボってしまうわけですが・・・

しかし実際には企業の生産活動に必要なそれらの固定資産が耐用年数を過ぎたとき、恐ろしい復讐が待っています。

なぜならその設備を買い換えるときに、残っていた帳簿上の価値を、その年度の決算で金額「除却損・売却損」として一気に費用化しなくてはいけないからです。

例えば新品のとき2000万円で買った設備の法定耐用年数が10年だったとします。

設備はプレス機でも旋盤でも、建機やトラックでも、なんなら社長さんの高級外車でもなんでも良いです

通常はこの場合、毎年2000÷10=200万円を減価償却費として費用に計上していき、10年経つと資産価値はゼロとなります(帳簿上は1円で固定資産に残します)。

つまり新品から一年たったらこの設備の帳簿上の価値は200万減って1800万円。

その次の年はまた200万減って1600万・・・と10年間は以下同文というわけです。

一般的に日本の優秀な技術で作られた設備はたいてい法定耐用年数(今回の設備だと10年)より2〜3年かそれ以上長持ちしますので、その間(11年目から使えなくなるまでの間)は減価償却ゼロでしっかり利益を稼ぎ出すことができます。

しかし目先の黒字にとらわれて、サボった未償却分がたとえば、4年分800万円残っていたら、老朽化して更新が必要になった時にこの未償却分800万円を、一括で除却(経費化し帳簿から除く)せねばなりません。

たとえば11年後にまったく同じ設備に買い換えると仮定しましょう。

買い替えた年の決算では減価償却しなかった残価の800万が経費として余計に出ていきます。

目の前の赤字を避けたばっかりに、未償却分が残っていて、必要な設備投資をちゅうちょしてしまうとしたら? 

・・その会社は起死回生のための攻撃的な設備投資ができない、ということになりませんか?

最終的にその設備はいずれまったく使用できないところまで老朽化し、買い替えもままならず、その会社は知らず知らずのうちに、緩慢な死に向かっていってしまうのではないでしょうか。

この例で減価償却をしないことが、会社が継続していくためにどれほどの障害になるかおわかりいただけたと思います。

私は幸いにも、30代の新米社長の頃、それに気づくことができました。

失礼かもしれませんが、私の見たところ「なぜ減価償却をしなくてはいけないのか」というそもそもの質問に答えられない経営者は、中小どころか上場企業にも一定数いらっしゃるのではないかと思います。

そんな皆さんには、オマハの賢人ことウォーレン・バフェットのこの言葉を贈りたいと思います。

「時間の経過とともに減価償却することで生じる資本的支出は必然的なものであり、人件費や光熱費とともにすべて必要経費である。」

 

・死に至る病 第2段階 「棚卸資産の水増し」

期末の在庫を本当の額より多く計上すると、期首の在庫との差額分だけ、年間の仕入れ額が減ることになるので、見かけ上の利益が増えるのでこちらも初歩的な粉飾の手口として多用されます。

しかし、棚卸資産の水増しは悪意がなくても自然発生してしまうケースもあるんです。

在庫品の中には

1)仕入れに繰り入れし忘れたり、不良品で捨ててしまった「もう存在しない」在庫や

2)存在はするものの、日焼けしたり、湿気ってしまったり、旬を過ぎて古びてしまったりして「商品としての価値がなくなった」在庫

があります。

期末(可能なら四半期ごと)に在庫台帳と実際の現物を倉庫で突き合わせ、現在の価値で評価し直し、そして減ってしまった分を、「評価損」として計上する。

こうしてやっと、実態を反映した正しい在庫額になるのですが・・

この作業をサボったまま、商品を仕入れたときそのままの金額で漫然と棚卸資産として計上してしまって、こんくらいみんなやってるでしょ気分で「なんとなく粉飾」しているケースがそれにあたります。

しかしその結果的に売れない商品や商品化できない材料を仕入れた時点で、会社の現金が出ていってます。

それを販売を通じて現金として回収できないわけですから、そんな在庫が増えると同時に会社の現金は砂が風で飛ぶように、少しづつ減ってしまっています。

(このように実際に損をしているわけですから、評価損を計上しなければいけないわけなんです。)

また、悪意を持って意図的に粉飾のために在庫を水増しすれば、そのぶん黒字になるかも知れませんが、実質赤字なんですから決済のための大事な現金がどんどん少なくなっていることには変わりがありません。

金融機関からも「前年と比べて在庫が増えていますね?」なんて問い合わせが入り、「来期のために売れる商品をまとめて仕入れています!」なんて冷や汗モノの言い訳をしなくてはいけなくなってしまいます。

数字でウソをつけば、今度は言葉のウソをつかねばならなくなってしまうことに。

先程の「減価償却をしない」のが「脱法ドラッグ」だとしたら、「棚卸資産の水増し」は「大麻入りタバコ」くらいのヤバさでしょうか? 

赤字決算を覚悟し、評価損を計上する勇気があれば、まだなんとか引き返せるレベルです。

・死に至る病 第3段階「架空の売上を捏造する」

さてここからは「悪気はなかった」では済まされない確信犯レベル。

金融機関や取引先の信用を失いたくないばかりに、架空の売上を捏造すると、貸借対照表上の売上債権が過大に計上されます。

架空の売上はホントは売ってないから当然といえば当然ですが、この売上債権は集金できません。

ですから、この架空の売上は未来永劫に売上債権、つまり集金できない売掛金として残ります。

その結果「売上は増えて利益も出ているけど会社の現金はどんどん減っていく」という珍現象が起こります。

結局は借入金を増やして決済用の現金を用意する必要が出てくるのですが・・・

この手口を使っていると、総売上に対して過剰な売上債権が残ります。

当然ですが、財務資料を手に入れた金融機関はじめ取引先の担当者には「なんか変だぞ」と疑いの色が生まれます。

従来からお付き合いのある金融機関は、社長の苦しい言い訳をもう信用せず、取引先や業界筋への内偵に入り、行内の信用調書にもその記録が残ります。

当然、会社への融資に対する姿勢も大きく変わり、追加融資を受けるのがむずかしくなってきて、あらたな金融機関へのアプローチが必要になってきます。

もし他行から借りることができても、彼らも売掛債権が異常に多い会社への融資になりますから、金利や担保、保証人など条件は相当悪くなってきます。

一人にウソをつけば、他の人にもウソをつかねばならなくなる。 

例えて言えば「コカイン」「ヘロイン」並みの危険度になるわけです。

しかし、しっかりと反省し、しかるべき手を打てばまだ更生の道はあります。

・死に至る病 第4段階 「仕入債務の過小計上」

ここまで来ると粉飾も地獄のゴールへの第4コーナー

一定の覚悟を決めた猛者しか踏み込めない領域。

薬物に例えるなら「クラック」や「MDMA」に相当する危険度です。

「仕入債務の過小計上」とは実際の仕入れた額より少なく仕入れを計上し、見かけの利益を出す手口です。

しかし、過小に仕入れを計上したところで、けっきょく「払うもんは払わねば」なりません。

ここまで来ると見かけ上の利益は出ているにもかかわらず、BS(貸借対照表)上、「流動資産」のなかの「現金・預金」が劇的に減ってきます。

もちろんその現預金ですら粉飾して「ある」事にすることはできなくもありません。

しかしそこまで行ってしまえば、もはや経営者本人ですら、決済に必要な現金が用意できているのかもあやふやな状態に。

最終的には複雑怪奇な資金繰表をあやつっての低空飛行から、いずれ企業の死である倒産に至ります。

「他人にウソをつけば 自分もそのウソにだまされる」

なによりも怖いのは、他人をごまかすための粉飾決算に、いつの間にか経営者自身までごまかされ、粉飾した数字を吹聴している内に自分自身も信じ込んでしまい、結果的にさまざまな判断ミスを繰り返し、最終的な経営の死にいたるることだと思うのです。

信じられないかも知れませんが、本当にそうなるのです。

「そうしなければもっと先に倒産していた」とおっしゃる方もいるでしょうが、たとえば数千万で済んでいた倒産時の負債総額も、その頃には何億にもふくれあがっていることでしょう。

もちろん第3段階や第4段階まで至るケースはまれです。

しかし無自覚なまま、あるいは「このくらいいいか」という経営者の甘い気持ちで第2段階まで行きながら、なんとなく継続している企業はそれなりに存在するのではないかと思います。

しかし繰り返しになりますが、それでは誰も会社の正確な状態を把握できなくなってしまい、粉飾した決算書をもとにした経営計画を立ててしまう、という「間違った海図で航海に出る」レベルの危険を犯しかねません。

さらにさらに、架空の黒字決算をすれば、結局払わなくてもいい法人税まで払ってキャッシュアウト(現金流出)するハメになってしまいます。

そしてこのキャッシュアウトが真綿のように会社の首を絞め、赤字決算ではすまない苦境に会社をおとしいれます。

しかもその後、必死の努力で金融機関から債務免除を取りつけたとしても、なまじ架空の黒字決算を続けていたばっかりに、「債務免除益」にかかる税金(そんなのがあるんです)に対し本来得られるはずの、累積赤字による控除も受けられず、結局苦しみは増すばかり。

おそらくごく一部でしょうが、「自分が担当の間はウソでいいから好成績でいて欲しい」と考える銀行担当者からの誘惑や、「まっとうなことを言ったばっかりに契約を切られたくない」会計事務所の黙認が、粉飾決算を助長しているケースもあると聞き及んでいます。

いずれにせよこの粉飾決算というものは、経営者が、いや人間がおちいりがちな「自身の弱点・欠点を直視できない弱さ」がその入口になっているのは間違いないようです。

ダイエットに例えるとすれば、もう病気なのに漫然と好きなものを食べた上で

・体重計の数字をごまかす ・食べたものやカロリーの記録をごまかす

ということ。

なかなかユーモラスな行為ではありますが、これでは人生の終着駅への到着が快速電車なみに早くなってしまうでしょう。

ここは恥を忍んで正しい体重や、カロリー量をきちんと記録し、減らなかったこと(赤字)を事実として受け止め、その上でしっかり対策を練り、実行することが健康のためには大切ですね。

経営も同じようにとりあえずの延命のために粉飾するのではなく「基礎体力はどうなっているのか?」裏付けのある数字で把握して、課題があれば迷わず解決していくことが再生と成長には必要だと思います。

縁起でもないお話にお付き合いいただきありがとうございます。

ここまでお読みいただき、もし「あれ? これまずいぞ!」という自覚が生じた方は、なるべく早い段階で私たちエースラボにご相談ください。

私たちは、もしお風呂のお湯がどんどん減ってきたら、やるべきことはお湯の蛇口を目一杯開くことよりも、まず栓が抜けてないか確認し、しっかり栓を閉じることだと確信しているのです。

☆経営者ご本人があきらめさえしなければ、必ず再起は可能です。会社の最後が「経営者としての最後」であってはなりません。

☆代表的な粉飾決算の方法はこのへんですが、グループ会社や気心の知れた粉飾仲間を持っていれば、さらに次の手があります。・含み損を抱えた架空の売上債権を付け回す、いわゆる「飛ばし」・決済のための現金を手に入れるため、裏付けのない手形を互いに振り出しあい、それを街の金融業者に持ち込み割引(現金化)するという、口に出すのもはばかられるあの「融通手形の交換」といった、地獄の業火に焼かれるかのような恐ろしい体験をすることも可能だと思います。

☆じつは「減価償却という考え方こそが、イギリスが重商主義から産業革命に移行するにあたって非常に重要であった。」と私は思っています。この話はまたいずれどこかで。

☆前月の42号のラボ日記「赤字は悪??」の中で外注を内製化するにあたってのデメリットについて書きましたが読者の方から「少しわかりにくい」というご指摘をいただきました。

そのへんを少し工夫してみましたので、ご覧いただけたら幸いです。

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