Vol.41_ストーリーとしての「エキス」

その妖しくも甘美な響き

健康食品やお化粧品の広告でよく「〇〇エキス配合!」という、うたい文句を見かけます。

「プラセンタエキス配合」「乳酸菌生成エキス配合」「ヒト幹細胞エキス配合」「卵殻膜エキス配合」などなど、

人によっては「効きそう!」と感じるかもしれませんが、逆に「なんか怪しそう」と感じてしまう人もいるかもしれません。

まるで錬金術のような妖しい魅力を放つ「エキス」という言葉。

Wikipediaでしらべると「アルコール」や「ペンキ」と同じ和製オランダ語らしく、

「動物や植物などの成分を水、エタノールに浸出させた液体を濃縮したもの。医薬品や、加工食品の材料などに使われる。」

「日本が江戸時代の鎖国中でも交流があったオランダで「抽出物」を意味する「エキストラクト(オランダ語: extract)」の略から由来し、江戸時代後期に日本語でも使われるようになった。」

ということで、かなり歴史を持ったカタカナ語のようです。

エキスの元になっている材料は確かに「体に良さそう」「希少そう」なものばかり。

しかも化学物質のように「食べてはいけない」「塗ってはいけない」的な要素は感じられませんね。

私達がエキスに対して「なんか良さそう」と感じるのは

「石油から作った化学物質はダメだが、自然由来のエキスだったら良いんじゃないか」

という気持ちがあるからだと思います。

つまり私たちは、「自然の材料からいろいろ手数をかけて抽出した成分だから体にもいいし効きめもあるだろう」というストーリーを信じているわけです。

しかし話はそうかんたんではありません。

たとえば自然派食品のソーセージの発色・菌繁殖防止にはよく「白菜エキス」というものが使われます。

WEBサイトでよく見るキャッチコピーは「化学物質である亜硝酸を使わず、自然から生まれた白菜エキスをつかってます」というもの。

しかし、食べてはいけない添加物の代表みたいに言われている「亜硝酸」と、自然派の「白菜エキス」の実際の成分ほぼおんなじです。

なので合理的に考えれば、化学的に合成された効能のある物質の代わりに、わざわざ高価な「エキスを配合」するのは少し変なんですが・・・

「効能も安全も両方欲しい」つまりは「いいとこ取りがしたい」

というかなり都合のいい、そして人間として普遍的な「需要」に「供給サイド」が見事に対応した結果が、「エキス」という古めかしい科学用語がいまだにマーケティングの世界では生きのびているということでしょう。

そんな私たちの「虎穴に入らずに虎子を得たい」気持ちが

・運動しなくてもやせるサプリ

・美男美女だが恋愛をしないアイドル

・安全で儲かる投資話

・甘くてゼロカロリーのドーナッツ(これは違うか)

という商品を作り出しているわけです。

「〇〇エキス配合」「〇〇由来の原料」「親孝行な社長が開発」などの「魅力的なストーリー」

「本当に効果があるのか」という「事実」

のバランスを考えないと消費者としては損をするわけですが、

商品を開発、販売する側の立場としては逆の意味で考えなくてはいけない部分だと思います。

☆化学物質のなかった江戸時代、きっとエキスは先進国オランダの先進技術。当時の保守的な人々からはまるで今の化学物質のように「えきすと申すのは毛唐の魔術ではないのか?」とか「はてこのえきすなるものいささか面妖である」とか「使ってはいけない」的に思われていたんじゃないでしょうか?