「弱くても勝てる経営」競合に負けない兵法入門3 囲む師は欠く・・あんまりいじめすぎると・・・

「弱くても勝てる経営」シリーズ ここまでは弱者である自分が、強者である競合や取引先、あるいは最強の強者であるお客様(市場)に勝つ方法について書いてきました。

しかしこう言った努力で少しづつ「勝てる」ようになると、小なりと言え「部分的に強い市場や相手」が形成され、自分より小さく弱い相手と対峙することが起きてきます。

このときにこれまでの恨みつらみを込めて「自分は強者」とばかりに相手への「包囲殲滅」を目指したりすると、思わぬ反撃を喰らいかねません。

はいご明察の通り、過去二回で掲載したとおり、相手に最初の攻撃を持ちこたえられたら・・・さらに五分五分の力で勝負する各個撃破作戦を取られたら・・・やっとの思いで強者になったはずが、大将首を取られ、思わぬ「三日天下」にもなりかねません。

今回は強者であるこちらサイドが最小の損害、いわゆるワンサイドゲームで、弱者または得意とする市場に勝利する方法を考えたいと思います。

会社の経営に関わる皆様なら「ランチェスター理論」をご存じと思います。

イギリスの航空工学のエンジニアであったフレデリック・ランチェスターが、戦争における戦闘員の減少度合いを数理モデルにもとづいて記述したものです。

ランチェスター理論では互いがマシンガンのような近代兵器を持たない場合、例えば100人対60人の戦いなら60人軍を100人軍が全滅させた時、100人軍の損害は60人、と考えます(第一法則)。

つまり相手より優勢な戦力を持っていても、数を頼みにすればそれなりに被害が出るワケですね。

(マシンガンのような、ほぼ同時に多人数を攻撃できる兵器を持っている場合100人軍の損耗は20人に減ります(第二法則)が、やはり一定の被害は避けることができません。)

この少なからぬ損耗率が100人軍の士気に微妙な影響を与え、前回ご紹介したナポレオンの「ガルダ湖畔の各個撃破」のように3万の兵力で6万に大勝利、なんてことが起こるのです。

しかしほぼ同時に多人数を攻撃できる近代兵器のない時代にも、人数で勝る100人軍が60人軍をほぼ損耗なしに打ち破るワンサイドゲームを実現する兵法がありました。

それが今回紹介する「囲む師は必ず欠(闕)く」です。

正確には「囲師必闕(囲師には必ず闕く)」と言うそうで、孫(紀元前535年頃 – 没年不詳)が唱えた、戦いで勝つための兵法の鉄則の一つです。

この鉄則では敵を包囲したら逃げ道を断たないことが重要であるとしています。

さて、これを読んで「そうだよな、相手を背水の陣に追い込まれたら窮鼠猫を噛む、必死の反撃が怖いよね」と考えたあなたはまだまだ。

兵法の目的は「勝つこと」であってジリ貧必至の「負けないこと」ではありません。

この「囲む師は欠く(包囲した軍師はわざと一ヶ所あける)」を100人軍に囲まれた60人軍で考えてみましょう。

もし100人軍が完璧な円形で包囲すると、囲まれた60人軍はどこを何か所突破するか、攻撃の自由を与えられた形になり、100人軍も手を抜くことができません。

しかしですよ、もし「完全に囲まれた」と考えた60人軍が、一ヶ所だけ包囲が手薄な一ヶ所を見つけたとします。

おそらく全員がこの一ヶ所に殺到するでしょうね。

だってそこがこの包囲から逃れられるただ一つの道だから。

でもそれが100人軍のワナだったら??

まるでせきを切ったようになだれ込む60人軍は、100人軍が隠しておいた予備兵力や落とし穴で全滅でしょう。

一方100人軍の損耗は限りなくゼロ、と言うワケです。

つまり「囲む師は欠く」と言うのは、包囲した相手にわざと一か所だけ付け入るスキを与えて、そこで討ち取る、と言う味方の損耗を限りなく少なくする兵法なのです。

個人的には、交渉相手に対し自分が優勢なケースで、優先順位が低い条件をわざと相手が攻撃しやすいように見せ、そこだけ譲歩して優先順位が高い条件を飲ませる。

額は大きいが工数がかかり、あまり儲からない仕事で競合に花を持たせ、利益の出る仕事に手を出させない。

などなどの小さな体験はありますが

私は「囲む師は欠く」を最大限利用しているのは通販番組だと思います。

製品の素晴らしさや効果をこれでもかと訴え続け、「それはきっといい商品だよね」視聴者が思うまでとことん包囲。

そして「でも高いんでしょ?」の疑いの視線に最適なタイミングで包囲を一ヶ所だけ開ける。

「本日限りこの価格」「返品OK」「限定500個」「痛みに苦しむ両親のために開発しました」などなど、自分に言い訳できる出口に、伝えられた商品の良さに包囲されていた視聴者は殺到。

電話をかけた視聴者は、「オペレーター(予備兵力)を2倍にしてお待ちして」いた通販会社に次々と討ち取られる

と言う寸法です。

皆さんの成果を労少なくして最大化する兵法「囲む師は欠く」。

通販番組に独占させず、使わない手はないと思いますよ。

☆組織のリーダーとして部下に言うことを聞いてもらいやすくするために、完璧な姿に一つだけ、わざとツッコミどころを作る。これも「囲む師は欠く」に相当すると思いますがいかがでしょうか?

まあ、私などの場合はちゃんと真面目にやってもツッコミどころ満載ですが・・・