オブジェクト指向プログラミングに学ぶ「オブジェクト指向経営」のススメ 3 「継承」で会社に背骨を入れよう!

前回は「クラス」についてお話しました。

「クラス」については

・鯛焼きの型が「クラス」、鯛焼きそのものが「オブジェクト(インスタンス)」。

・経営上では「職務規定」や「役職規定」は鯛焼きの型(クラス)、それに従って行動する社員やグループは、鯛焼きそのもの(オブジェクト)と考えてみてください。

ということを思い出してくだされば結構です。

今回は、前回の内容を素直に実行して、「クラス」に基づき、かんたんな業務指示書を作り、それぞれの部署や役職の業務内容を明確にした沢田工業さん(仮称)の事例から、「継承」という概念についてお話していこうと思います。。

「クラスにもとづく業務指示書のおかげで仕事のヌケモレダブリはなくなったはず」、と一安心の沢田工業の元太郎社長さん・・しかし社内では早速ひと悶着はじまったようですよ。

製造部長

「なんでこんな案件受注してくるの??工場の採算が悪くなっちゃうでしょ!やめてもらいたいな、ホント(怒)!」

営業部長

「は? 低粗利案件を受注するな??製造部の考えはそうかも知れませんが、私は営業部長です。私は売上予算の達成が職務ですし、それによって査定を受けますのでそうは行きませんよ!」

沢田工業の元太郎社長さん、オブジェクト指向経営を志し、たい焼きの型とも言える業務指示書(クラス)をしっかり作ったところまではよかったんです。

でも、残念なことにその指示書に全社としての統一感がなく、そんなわけですから個人も部署も部分最適化に邁進してしまい、会社はバラバラ・・

従順そうに見える社員もカゲではこんなこと言ってるらしいですよ

「社長がオブジェクトなんちゃらって変な考えに染まって、業務指示書に基づく評価制度なんて作るから・・・こんなだったら前のほうが全然良かったよ。ヌケ・モレ・ダブリ、ムダのオンパレードだったけど、お互い協力しながらやってたし・・・」

おやおや、そういうのは「協力」と呼ばず、「なれあい」っていうんじゃないの?、という皮肉はさておき

そんな課題を解決するのが「継承」という今回お話する概念です。

「継承」というのは既存のクラスを親クラスとして、その下に新しいクラス(子クラス)を作る仕組みです。

「継承」によって親クラスの下に子クラスをつくる時、子クラスには、まるでコピーしたように親クラスの機能がすでに備わっているため、子クラスを作る際には新しく追加したい機能を記述するだけで済みます。

これが「継承」という考えです。

例えばですがヒトとネコはぜんぜん違う生き物ですが、「頭が1つで目が2つ、手足が4つ、脊椎があって、おっぱいがあって」という基本のところは一緒ですね。

これって「ヒトクラス」「ネコクラス」という子クラスがあって、それぞれが共通の親クラスである「哺乳類クラス」の機能を継承しているって考えられませんか?

沢田工業さんの営業部と製造部も、上位部門の事業部のクラスを継承して業務指示書を作ればよかったんですね。

例えばこんな感じです。

A)ビフォア (継承するまえの業務指示書の一部)

製造部 「製品群Aについては、FC(工場原価)に対して40%の利益率を確保すること。原価低減の努力をしても目標に達しない場合は製造を禁止する。」

営業部 「製品群Aについては国内シェア17%をめざし年間売上予算を50億円とする。」

B)アフター(親クラスの内容を継承した業務指示書の一部)

製造部 「事業部のミッション『配当原資と新工場への投資のため事業部年間経常利益率6%6億円を死守すること』を実現するために、製品群Aについては、FC(工場原価)に対して40%の利益率を確保すること。原価低減の努力をしても目標に達しない場合は製造を禁止する。」

営業部 「事業部のミッション『配当原資と新工場への投資のため事業部年間経常利益率6%6億円を死守すること』を実現するために、製品群Aについては国内シェア17%をめざし年間売上予算を50億円とする。」

もしも、さっきの沢田工業さんのように子クラス(部門)同士の内容に対立が生じたら、ともに継承した親クラスの中身を損なわないように、子クラス同士の内容を調整すれば良いのです。

そうなっていれば、さっきのお話はこうなっているはず・・・

製造部長

「この新規受注、どんなに原価を工夫しても40%の粗利が取れないんだよね。どうしたらいいかな?値上げ交渉とか無理??」

営業部長

「ん〜 部門経常利益率6%の事業部のミッションを継承した製造部としては売上とれても利益率の悪い製品は作れないってことね。」

「そりゃ営業部だって同じミッションを取締役会から継承してますよ。そのうえでシェアアップのために価格交渉がんばっているんだから。

だったらさ、製品価格はそのままだけど、部品交換や、アップグレードに関する年間保守契約もセットで取ってきても良い?それを粗利アップとしてカウントしてもらえるよう事業部に交渉してみない?

こうすれば、事業部から継承した利益のミッションも、営業部や製造部個別のミッションも、いや「顧客の未来に貢献する」っていう、一番上位の親クラスである当社の理念も満たせるんじゃない?」

製造部長

「今営業部長がいい事言った! それ行けるかも!

A製品の原価低減も、もう限界が来てるので助かりますよ。

では製造部は品質管理部と協議して年間保守点検の業務指示書を作るから、それを踏まえたお客様向けプレゼン資料は営業さんでつくってよ。

そうそう、こちらサイドでは業務指示がきちんと守れるように技術員のトレーニングも必要になるね。

事業部には取締役会のミッションに従って保守料を粗利換算して良いことに指示書を調整してもらえるよう、プレゼン資料作らなきゃ。」

 

・・・どうやら沢田工業さん、「継承」のおかげで、社内ばかりでなくお客様まで巻き込んだwinwinのビジネスモデルを手に入れることができそうですね。

このように経営にオブジェクト指向を取り入れ、継承を使った業務指示書(クラス)があると、業務の流れにビシッとした背骨を入れることができるのです。

部門間の仕事の流れがスムーズになって、これまで以上に利益を生む会社にしたいみなさんは、ぜひこの「継承」に注目して業務の見直しを検討してみてください。

・・・次回は、クラスごとのミッションをスピーディに遂行するのに欠かせない「カプセル化」、という非常に重要な考え方についてお話したいと思います。

☆ このレターは、プログラミングが本職の方にもお送りしています。他にも私よりプログラミングに詳しい方もいらっしゃると思います。このレターの記載内容は沢田個人が組織運営に「オブジェクト指向」を取り入れられないか、という独自の考えに基づいて書かれた見解でありますので、実際のプログラミングとは異なる場合がございます。TVではありませんがどうか「ホンマでっか」という気持ちでお読みくだされば幸いです。またご助言やご意見があれば沢田宛ぜひお聞かせくださいませ。